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「あの……?」 何がしたいのか分からず戸惑っている間にも、手の平と甲を犬や猫の眉間を撫でるほどの優しさで擦られる。 「自分より体の大きい奴が怖いとか、接触が怖いとか」 「いえ、今のところは」 トラウマになっていないかを確認したいのだろうか。なっているとするなら、無道先輩に対してだけだ。その先輩は今1ヶ月の停学処分期間中。行為自体も、容姿のことを言われる方が俺は怖い。 そもそも……先生は「暴行」と言ったけれど、どこまで聞いたのだろう?暴力か、性暴力かで印象が変わってくる。ニュアンス的に後者に思えるけれど、会長は配慮してくれただろうし、無道先輩が絡むとそういう関連付けになるのだとしたらぞっとする。 「本当か?」 犬がお手をするように手を持ち上げられている。じっと見つめる目は見透かそうとしている。テレビで見た他人の心理を読む人のようだ。 「はい」 見つめ返して頷くと、そのまましばらく見つめ合った後で先生の手は離れていった。 「強がりか自己暗示かと思ったがそうじゃなさそうだな。触れて済まなかった」 「いいえ」 「念のため聞いておくが、キャンプのグループで避けたい奴は居るか?」 たぶん本題はこれだ。あの時あの場に居たもう1人。押さえ付けられて、目を直に見られた蕗口の顔が浮かんだけど、ここで名前を出すとややこしくなりそうだと思ってしまった。 「大丈夫です」 後々これを後悔することになる。

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