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納得してくれそうにもないので振り返って目を合わせた。眼鏡越しの赤が映っているだろう。ほっ、としたような心配するような表情の蕗口。 「どうしたの蕗口。目を洗いに行くまでのくだり聞いてたんじゃないの?」 「ああ、うん、そうなんだけど」 手を解放されたので、再びコテージに向かって歩き出す。 「アンタがあんなこと聞くから」 「ん?」 ぼそりとひとり言を呟いた蕗口も遅れて歩き出す。足音が続かないのでもう諦めたのかと思った。でも俺が諦めてしまって、着いた後のことを考えた方がたぶん良い。 そうだなあ、鏡を見るタイミングさえ離れていてくれれば良いんだけど、大人しくしててくれるだろうか。 「じゃあここで待ってて」 程なくしてコテージに到着。リビングのソファに座るよう勧めてみた。目線はやるものの、蕗口は座ろうとしない。 「なんでそんな嫌がんの?やっぱり顔を見られたくない?」 質問よりも確認に近いと感じた。分かっていて聞くなら誤魔化す必要はないだろう。仕方ないかな、と肩で息を吐く。 「うん」 「もう見てるのにか?」 「うん」 蕗口は笑っている。口元だけの笑みだ。何を考えているんだろう。 「君が好きだと思ったのは俺の顔?」 「分からない……」 そうか。マスクを押さえて、俺はリビングを出た。

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