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洗面所でコンタクトを外して鏡を覗いてみると、確かに充血した目は赤い。ただゴミやまつ毛は見当たらない。さっきの涙で流れたのか、痛みはないし、違和感も薄れている。
念のためコンタクトはしばらくしない方が良いだろう。幸い右目はなんともないし、アンバーと比べればヘーゼルはまだ幾らかコンタクトの茶に近い。前髪の分け目を変えればなんとかなるだろうか?試しに左側へ流してみた。うん、大人しくしてたら問題なさそう。分け目は普段からたまに変えるので、特に変に思われることもないはずだ。
「あれ……」
リビングへ戻ると誰も居なかったので、蕗口が座らなかったソファに腰を下ろす。彼はどこへ行ったんだろう。
……さっきは少し嫌な言い方をしてしまった。それで気を悪くしてしまったのかもしれないけれど、裸眼まで見られたくはなかった。
「うーん……」
無意識に唸って、ソファの上で膝を抱える。まだ1日の半分程しか過ぎていないのに、なんだか疲れてしまったみたいだ。いつ「つまらない奴だ」と言われるか気が気ではなかった。
今のところ普通に話していても俺に失望した様子もなく、態度も変わらない。ただ昼食の準備中の一瞬は気になる。あの無表情は、蕗口の「素」なのだろうか。
「すみませーん」
こんこん、とその時ノックがあった。わざわざノックをするのなら、少なくとも同グループの人間ではないな。左の瞼をぱたりと落として、どうぞと返す。
「えーと堰くん?かな?」
「あなたは……」
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