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ここで食い下がるのも不自然かなと、お願いすることにした。 お兄さんは洗浄綿を指先で軽く絞って、目の周りを拭いてくれる。注射の時なんかに拭くあれだと思うのだけど、見た目以上に水分を含んでいたらしく、ぽたぽたとお兄さんの腕を水滴が伝っていく。それを脇腹の辺りで拭うラフさと、俺の左瞼を拭く丁寧さとのギャップに、真面目な人なんだろうなという印象を持った。 「前向いてもらっていい?」 「はい」 「今何時だったかな?」 お兄さんが座っているのは俺の左側。その閉じた左側で何かしているなと思っていたら、時間を聞かれたので正面の壁の高い位置に掛かった時計を見る。 「はい、そのまま」 答える前に、やんわり顎を固定すると同時に下まぶたを押し下げられ、気づいた時には目薬をさされていた。すごい、早業にちょっと感動した。自分でさすより早いかもしれない。 「すごい……」 「はは、堰くん素直でやりやすかったよ。あ、目はまだ閉じててね」 よく言われる「目薬の後は瞬き」はかえって薬が流れてしまうので、閉じたまま馴染ませる方が良いよと、溢れた目薬をガーゼで拭ってくれるお兄さん。砂や灰が目に入った、と救護室を訪ねる人は少なくないそうだ。 「ところで堰くん、どこかで会ったことない?」

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