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「え……、っと」 聞かれて、改めてお兄さんを見る。黒に近いこげ茶色の髪はたぶん適当に掻き上げたんだろうなと思うけど、セットしたようにさまになっている。垂れ気味の切れ長の目は鋭くもあり柔らかくもある。あとは唇の下のほくろ……確かにどこかで見た気がする。 けれど、はっきりと思い出せない。そんな俺にお兄さんは眉尻を下げた。 「まあそうだよな。5年は会ってなかったし。夏月(かづき)って言ったら思い出す?」 夏月……実家のお隣さんの苗字だ。ということは。 「……太朗くん?」 「そう!ああ、良かった。全然気づかないし、雰囲気違うから別人かと思った。久しぶり、ゆう」 朗らかに笑って太朗くんは俺の頭をぐしゃぐしゃと撫でた。大きくて温かい手、明るい表情、ああ、そうだ、太朗くんだ。 お隣さん家族の息子さん、太朗くん。今の俺と同じように高校進学と共に寮に入ってから会えなくなってしまったけれど、それまではよく遊んでもらっていたっけ。 「大きくなったな。本当に分かんなかった。実は言うと目の色で確信した」 「ああ、これ……」 そう、太朗くんは俺の容姿を知っている。中身も知っている。その上で、普通に接してくれた家族みたいな存在。でもなんでだろう。 「今は隠してるんだ。内緒にして」 口の前に人差し指を立てると、何も言わず太朗くんは頷いた。

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