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2階建ての事務所は1階も2階もまだ明かりがついているようだった。「御用の方は中へどうぞ」と入口にかかった札に、控えめのノックをして扉を開ける。目の前の受付カウンターは無人で、その向こう側には事務机がいくつかとソファーが置かれていた。近くに人の気配がなく、事務所の奥を覗き込んだところでそちらから声がした。
「来たな」
太朗くんだった。給湯室らしきそこから顔を覗かせた太朗くんは、健助を認識して目をぱちぱち瞬き、昼間会ったのを思い出したのかにこりと笑って出て来てくれた。
「お友達も来てくれたんだね」
「どうも」
健助がぺこりと頭を下げるのに俺もつられてそのまま挨拶。
「こんばんは、太朗くん」
「うん、こんばんは。眼帯大分剥がれちゃったな」
太朗くんの言う通り、このままシャワーを浴びてしまった眼帯は水を含んで端からめくれている。手で触るとまだ湿っているぐらいだ。
「清潔なのに取り替えよう。その前にお茶淹れるから、手伝ってもらえるかな?」
「俺がやる。危ないから、座っててくれ」
俺が頷く前に健助が一歩前に出た。続いて太朗くんにもソファーに座っているようにと促されたので、大人しく待っていることにする。給湯室へ入る2人を見送ってから足を向け、けれど、ふと、外に違和感を覚えて振り返る。
……声がする。
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