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事務所からそう遠くないだろう位置からの声、酔っ払ったような、呂律の回っていない男のそれは、1人でまくし立てているように思えた。はしゃいで飲みすぎた大人の徘徊……だとしたら施設のスタッフである太朗くんに見てきてもらうのが最善だろう。
「太朗くん」
「はーい」
呼んだ時だった。微かにか細い声が混じっているのに気づいてしまった。体はもうドアに手をかけていて、顔を出した太朗くんと目が合った瞬間開けて飛び出していた。
「トラブル!」
「ええっ?!ちょっと待っ……」
事務所はキャンプ場や、コテージなどの宿泊施設の中間辺りにあるものの少し外れていて、周囲は人通りがあまりない。つまり他の誰かの助けは望みが薄い。少しでも早く、太朗くんが着くまでの繋ぎにでもなればいい。ドアを開けた時点で、ひどく震えた怯える声は泣き出していたから。
「いや……!」
はっきりとした拒絶の言葉を拾ってたどり着いたのは事務所の裏手を少し進んだ、バンガローが建つエリアに近い草木の生い茂る場所だった。男2人の陰に隠されて、木を背にして腕を抱くように女の人が震えているのが見える。
男の1人はずっとなにかを喋っていて(事務所で聞いた声だ)、もう1人はごそごそと動いている。あんまり刺激しない方が良いかもしれない。早足で横に回って声をかけた。
「こんばんは。泣いてるみたいですけど大丈夫ですか?」
首を振った女の人にぎょっとした。手首を掴まれて喋っていない方の男の下半身に引っ張られるのに、必死で抵抗している。思わず引き剥がそうと男の手首を叩き落とした。
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