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「はあ?!」  すぐに返ってきた拳を後ろに下がって避けたけれど、掠った眼鏡が吹っ飛んだ。柔らかい土の上とはいえ無事だろうか。 「なんだお前?王子様気取りか?」 「ガキがしゃしゃり出てくんじゃねー!」  酔っているからか2人とも声が大きい。この分だと太朗くんもすぐ見つけてくれそうだ。女の人の方は、手は解放されているけれど動ける状態ではなく、見る限り放心している。 「すぐスタッフさんが来てくれますから」  安心させたいけど俺じゃ頼りないだろうし、と努めて落ち着いて声をかけると何度も首を縦に振って応えてくれたので、ほっと息をつく。ただ残念ながら男たちは刺激してしまったらしい。 「はいはい、ハッタリハッタリ」 「ガキが考えそうで捻りがねぇな。水差した覚悟はできてんだろうな!」  本当なんだけどなあ。返す間も無く髪に伸びてきた手を、首をひねって避ける。意識が俺に向いたのでそのまま女の人から遠ざかるように、じわじわと後ずさっていく。蹴りを避けた時、眼帯で死角が広い左側からシャツの胸元に手が伸びているのに気づいた。気づいたけれど遅く、今の体勢じゃ回避が間に合わない。 「はい捕まえたー」  ぐっ、とすごい力で胸ぐらを掴み上げられ踵が浮いて首が締まる。後頭部が下がって前髪が流れ、夜に白い眼帯が浮かんだ。 「右が遅いと思ったらこんなん貼り付けてたわけか」 「かわいそー。見やすくしてやるよ」  言い終わるより早く、ぴりりと皮膚が引っ張られた。開けた視界に、歪んだ表情。 「うわ、気持ち悪」

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