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「なに?コスプレ?」
馬鹿にしたような笑い声が耳を揺する。傷つくよりなにより、不快だ。首が絞まっていて言い返すこともできない。下手にやり返したら話が大きくなってしまうし、意識が落ちない程度に踏ん張って助けを待っていた。
「おい何してる!」
太朗くんだと思った。やっと来てくれた。安堵して、そちらに視線をやる。見えたのは蕗口だった。躊躇なく駆け寄ってきて、俺の胸ぐらの手を勢いよく上から押さえつける。おかげでしっかりと足が地に着き、再び前髪の幕が降りた。蕗口と男は睨み合っていて、もう1人の男は手を出そうか迷っているようだ。たぶん20秒も経たないうちに、今度こそ太朗くんの声が聞こえてくる。
「どうしましたー!?」
太朗くんらしく、スタッフさんらしい言葉選びだなと思った。決めてかからず聞く姿勢がある。ただし目は全然親しめない感じになっていた。ほぼ据わっている。
「お姉さんと楽しくお喋りしてたら邪魔してきたんだけどー」
「子供は寝る時間だろ?スタッフさんからも言ってやってよ」
本当にスタッフが来てさすがに分が悪いと思ったのか、男たちは自分たちに非はないと主張を始めた。それをうんうんと頷いて聞いた太朗くんは、掴まれたままの俺の胸ぐらを指して「とりあえず離そうか」と感情の伴っていない笑顔で言い放った。無言ですっと力が抜けて自由になる。
「話し相手をたくさん呼んだので、ゆっくり聞かせてくださいね、お兄さんたち」
続く太朗くんの言葉に男たちは顔を引きつらせた。
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