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「大丈夫?」  後は太朗くんにまかせて距離を取り、軽く咳込んでいると、蕗口が気遣って背中を撫でてくれた。そういえば彼はどうしてここに来たんだろう。散歩かな。おかげさまで、と頷いたところで今度は女の人に声をかけられる。 「あの……ありがとう。これ……」  差し出されたのは吹っ飛ばされた俺の眼鏡だ。拾ってくれたらしい。動けるようになったんだな、と思ったけれど、眼鏡を乗せたその手はまだ震えていたからできるだけ触れないように受け取った。 「怪我とかしてませんか?」 「大丈夫」 「良かった」  そんな会話をしながら、彼女の目線が俺の右目に寄っているような気がしていた。瞼を閉じているのが怪我と思われているのかな。 「あの、もしかして目に怪我……」 「違います」  予測していたのに上手い言葉が浮かばなくて、声質が硬くなった結果怖がらせてしまった。あんな経験をした後で心配してくれている人に、俺が怖気付いてどうする?だけど目を見て怯える人もいるし、少し離れたとはいえ後ろに蕗口も居るからなあ、と一瞬躊躇して前髪を少しかき上げた。 「……秘密にしてるんです」  小声で前置きして恐る恐る右目を晒す。今日みたいな月の光が強い夜は、特にアンバーも濃く映る。怖くないだろうか。しばらくの無言の後女の人は口を開く。 「すごく綺麗……宝石みたい」

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