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 ぐっ、と息を詰める。彼女が誰かに呼ばれて視界から居なくなる。音が遠のき視界が暗くなっていく。 「侑哉!」  はっとすると太朗くんの言葉通りにスタッフさんたちが集まって来ていた。囲まれる男たちを確認してざわざわとした声を耳が拾い始める。 「本当に大丈夫か?」  上から声が聞こえると思ったら蕗口に両肩を支えられていた俺は、どうやら一瞬意識を飛ばしたらしい。自分の足で立ってはいるけれど、ふらついたのか重心が蕗口の方へ偏っている。 「ごめん、大丈夫」 「嘘つけ」 「……蕗口、なんか怒ってる?」  いつもより声が硬いし素っ気ない。見上げると目が合わない。あれ、俺なんで眼鏡かけてないんだっけ。 「怒ってないよ。なんて言うか……がっかりして」 「俺に?」  蕗口がこっちを見た。何か言ってるけどよく聞こえない。聴覚がちゃんと戻ってないのかな。 「ごめん、聞こえない」  謝ると眉が寄ったので、本当に怒らせてしまったかも。きっと、テストはここで終わり。無意識に手に力が入って、眼鏡を握っていることに気づいた。早くかけなければ。けれどどうにも震えて上手くかけられない。酸欠だろうか。 「侑哉、もしかして俺が怖いの?」  すると蕗口がそんなことを言うもんだから否定しかけて、やめた。全く怖くないと言えば、それは嘘になるから。 「いや……いや、うん、ちょっとだけ。でもこれは違うよ」

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