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 消毒液を浸した洗浄綿のひやりとした感触にまぶたが震える。砂まみれの眼鏡をかけていたからか、念入りに拭かれて子猫にでもなったような気分。 「俺のことは聞いたかな?」 「家が隣だった、とか」 「そうそう。一人暮らし始めてからは会ってなかったから、まさかここに来るなんてびっくりだよ」 「へえ……」  目薬を差したところで、俺を挟んで交わされる会話にまた心地良い眠りに誘われていた。信頼している太朗くんと、安心できる健助、2人の声が子守唄に聴こえてくる。ぺたりと眼帯を貼られたあたりで目を開けていられなくなってしまった。 「あーらら、限界かな」  ベッド使って良いよ、と声をかけられたけれど、「うん」と答えたものの体がついてこない。眼帯をなじませるために頬を撫でる太朗くんの手に、頭が吸い寄せられていくような感覚で、ゆるやかに意識が遠のいていく。 「少し寝かせてあげようか。宗弥くんは先帰る?一緒に仮眠してく?」 「俺は……」  ここで眠りに落ちた俺が目を覚ました時には、窓の外は明るくなっていた。  携帯を探してポケットに無く、そもそもいつの間にかベッドに寝かされていたことに気づく。テーブルの上で見つけた携帯に表示されたのは、5時1分。結局朝まで寝てしまったらしい。はっとして瞬きをしてみるけれど、乾いたコンタクトが張り付いた感じはなくて首を傾げた。無意識で外したんだろうか。

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