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「蕗口って面倒見良いよな」
とうもろこしをかじりながら桐嶋が呟いた。確かにそう。このキャンプ中、面倒見が良くて気が回り、空気を読めてなんでもそつなくこなす、そんな印象がどんどん強くなる。
だからどうしてあんなことに手を貸したのかが分からなくなっていく。あの時「この人に逆らえない」と言っていたのが真実なのだろうか。親戚だから、が全てなんだろうか。ちゃんと友達になりたいけれど、それが分かるまでは蕗口にどう接して良いのか考えてしまう。
「隙あり!」
「むぐっ」
突然、口の中に肉の香ばしい香りとタレの甘みが広がった。条件反射で噛むと桐嶋の箸が引っ込む。ねじ込まれたらしい。
「……肉美味しい」
「だよなー」
口半開きのままだったのかな、と恥ずかしくなっていると、桐嶋に「堰は割とぼーっとしてるよな」と言われてしまった。これでも周りは見ているつもりなんだけれど、口に肉を突っ込まれることなんて想定できていない。
「特に考え事してる時な。隙だらけだから気をつけた方が良いぜ」
「……気をつける」
なんでもなかったように桐嶋は自分の食事を再開した。具体的な何かがあるわけでもないのだろう。レクリエーションの時、昨日の夜、何があったのか知らないはずだから。
だけどなんだか、妙に耳に残った。
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