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 話すタイミングがないままに就寝時間を迎えてしまった。元々人当たりの良い蕗口がウインクゲームで時の人となり、引っ切りなしに声をかけられているみたいだ。入浴時間か就寝前にでも、と考えていたけれど、グループ内の3人組の彼らに連れて行かれたり、出たっきり戻って来なかったりで、今。 「ごめん」  蕗口の小声が聞こえてきた。メッセージアプリで先生の見回りが早いらしい、という情報が届いてみんなで慌てて寝具に潜り込んだところだ。蕗口がいいなら俺は問題ないんだけど……と、大丈夫の意味で手を伸ばして蕗口の肩を叩いた。  この寝室には2段ベッドが2台と、2組と3組で頭を向かい合わせるように系5組の布団が敷いてある。3人組と西岡がそれぞれ2段ベッドで、他の5人が布団を使っていた。両側を桐嶋と健助に挟まれて俺、向かい(頭上)には前川と蕗口が寝ている。桐嶋からは数分で寝息が聞こえてきたのでびっくりしてしまった。寝つくの早い。いや、昼間あれだけ動き回ったら妥当かな。  そのうちに徐々に他の寝息も重なってくる。みんななんだかんだ疲れているらしい。そろそろコンタクトを外しに行っても良いだろう、と思うけれど、上に伸ばした手は肩を叩いた時に蕗口に握られてしまってそのまま。寝息も聞こえず、微動だにしないので離れていいものか判断できないでいる。また寝落ちしないように気をつけないと。

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