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先生に頭を撫でられたような気がした次の瞬間から意識が途切れた。
ぱたん。ドアの閉じる音にはっと目を見開く。たぶんそんなに時間は経っていないけれど、あれだけ寝ないようにって気を張ったのについつい健助に寝かしつけられてしまった。
蕗口に握られていた手は解放されていて、桐嶋は反対方向へ寝返りを打ったのか足も軽い。ただ健助の手は今はじっと俺の腰の辺りで落ち着いている。熟睡しているなら動かしても大丈夫かな?と、その健助が寝ている右側に顔を向けて、鼻が触れそうなほどの距離だったので思わず息を詰めた。びっくりした。相変わらずフードを被っていて様子は分からない。けれど微かに寝息らしきものは聞こえてくる。
「ちょっとごめん」
顔を正面に戻してから小さく一声かけて腰の手をそっと掴む。わずかに浮いたと思ったら、すり抜けてその手は滑るように背中へ上がり、健助の方へ引き寄せられた。不可抗力とは言え、顎にキスしてしまった。唇じゃないだけ多めにみてほしい。
「健助」
優しく寝かしつけてくれたのと同じ手とは思えないほど、引き寄せる力がだんだん強くなって、もう完全に抱き込まれている。蕗口もそうだけど、一見強そうな人は甘えん坊だったりするのだろうか。そう言えばアスレチックの時、頭を撫でてもらいたがってたっけ。よしよし、と背中を撫でてみると、すーっと力が弱まった。
「お兄ちゃんおやすみ」
「お前も……早く寝ろよ…………侑哉」
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