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「え?」
寝ているはずの健助が自分の名前を呼んだことにびっくりして、思わず目線をフードの中へやった。起きていたのか、起きたのか。起こしたのなら申し訳ないと思ったけれど、フードの中に変化はなく、全く見えない。その後口が開くこともないまま静かな寝息だけ聞こえてくる。
ずいぶんはっきりした寝言……なのかな?弟くんだと思い込んでいたけど、もしかして俺が夢にお邪魔していたのか。だとしたら初めから俺自身を抱きしめようとしていたってことになるけれど……いや、まさかね。声をかけたのに反応しただけだろう。納得して腕から抜け出す。また寝落ちてしまう前にコンタクトを外さないと。
と、そこで気づいた。蕗口が居ない。
「……外?」
ドアの閉まる音は先生ではなく、蕗口だったのかもしれない。明日になれば片付けや帰る準備で自由時間はほとんど無いに等しいはずで、今なら、合流できればちゃんと話ができるんじゃないだろうか。
瞬きをしてみる。少し乾いているけど、まだ大丈夫そう。酷使している目に申し訳なく思いながら、コンタクトを外す前に蕗口を探しに行くことにした。
布団から抜けて静かに寝室を出る。照明はつけないままで眼鏡だけかけてコテージを後にする。昨日と違い先生の許可を得ていないのが気がかりではあるけれど、見回りは一旦終わっているのでしばらくはたぶん大丈夫だろう。
できるだけ早く帰るように、早速蕗口を探す。俺ならどっちへ行くだろう、と考えながら人目につかない方へ歩く。蕗口は案外近くに居た。
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