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コテージの裏手、整備された道から少しだけ外れた木々の合間で、幹に寄りかかる背中。もう少し奥に居たら見つけるのに手こずったかもしれない。
誰かと一緒の可能性も考えたけれど、他の人影は無さそうなので近づいて声をかける。
「ふきぐ」
途中でばっと振り返った蕗口の手に口を覆われた。反対側の手にはスマートフォン。しまった、電話中だったのか。邪魔してごめん、とすぐに解放された口で音にはせず謝った。そのまま立ち去ろうと向けた背に「待って」と声がかかる。片腕で抱き留められる。顔だけ振り返ると、スマートフォンを少し遠ざけた蕗口が、ほっとしたような泣きそうな表情で俺を見ていた。まるで、はぐれた親を見つけた子どもみたいな。
「アンタの勇気、分けて」
空気を割るような怒鳴り声が受話口から響いてくる。一瞬で理解して体が強張った。これは、この相手は、知っている。無意識に唾を飲み下すと、俺はゆっくりうなずいた。
『おい聞ーてんのかこの××野郎!』
「……聞いてるよ」
『なんだその態度!舐めやがって!』
相変わらず威圧的で乱暴な、蕗口の電話の相手。間違いなく、無道だ。オリエンテーションの時にひどい目に遭わされた記憶がフラッシュバックする。蕗口も微かに震えている。彼も怖いんだ。大丈夫、頑張れ、自分と蕗口を励ました。蕗口は一度だけ深呼吸をした。
「だから、そういうのもう効かないから」
『ああっ?!』
「言いなりにはもうならない」
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