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瞬間、何かを蹴倒したような衝撃で電話の音声が割れた。予測していたらしく蕗口がスマートフォンを遠ざけていたので、2人とも耳は無事だ。あの人は、物に対しても日常的に乱暴なんだな。
『テメェこのグズ!どうなるか分かってんだろうな、あ?』
「あのことならどうぞ、ご自由に。とにかくもう、悪巧みには一切関わんないから」
『なんだと?』
「って言うか邪魔しちゃうかもね」
『お前……』
声色が変わったのがはっきりと分かった。蕗口の本気が伝わったんだろう。電話口でいくら脅しをかけても無駄だと。それでも蕗口はあくまで冷静に、ため息混じりの落ち着いた声で諭すように続ける。
「良い機会だからさ、センパイも変わりなよ。……じゃあね」
返事を許さず通話を切り、その場で連絡先をブロックした後、蕗口は長いため息を吐いて「終わった」と俺の肩に頭を落とした。ずしりと重く、本当に脱力していることが分かる。頑張ったね、とその頭を撫でた。
「……もっと、早くこうしておくべきだった」
「うん」
「どうとでもなるのに逃げてた」
「うん」
「あのさ……あの時は、本当にごめん」
もしかしたら罰を望んでいるのかもしれないし、望み通りすることもできるだろう。安佐凪会長に報告すれば学園からの措置もたぶん今からでも可能だ。
けれど俺の口から出たのは「いいよ」の3文字だった。
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