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 蕗口が顔を上げる。コンタクトのラインが見えるだろう距離感。近すぎて目線を逸らしていたので、目は合わせずに済んだ。 「え、そんな即答する?ほんとに?」  たった今、わざわざ俺の前で啖呵を切ったのは覚悟の表れだったろう。俺を信用させるための工作とは思わない。蕗口の表情も、相手の声色もリアルで、そもそもあの人はこういう小細工に乗るタイプではなさそうだから。元凶があの人ならあれで十分だ。 「うーん……、もうしないでしょ?」 「しない。絶対やらない」 「うん。だったら俺のことはもういいよ。もう終わり」  あまり思い出したいものでもないし、もし今後何らかの報復的行為があった時に味方になってもらえると助かる。と、そのまま話した。 「あー、もう、そういうとこだよ、ホント」 「うん?」  これであの時の話は終わりにするから、と前置きがあった。 「先輩の話聞いた時はさ、純粋に逆らう奴が居るんだって興味が湧いたんだよ。実際に目にして変な奴だと思った」  再び頭を落として、蕗口は話し始める。そうか、これから「答え」を聞くんだな。相槌も打たずに黙って待つ。 「危機的状況なのに焦った様子なくて、目が合った一瞬だけ動揺したのが不思議だった。それでも真っ直ぐ見返してきて、その目が強烈に印象に残った」  その後の対応と、普段の様子に驚いたらしい。蕗口のことを話さなかったのが、逆に彼に罪悪感を与えていた。

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