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 軽口、ではなく本気だということを知ってしまったので反応に困って、あー、なんて意味のない声を出してしまった。どう答えても白々しくなりそうで。 「ごめん、今のは気にしないで」  そんな俺の反応を期待していたわけでもないのか、すぐに蕗口は別の話題を振ってくれる。昼間のクイズラリーからその後の川遊び、あんな浅い川で大はしゃぎしたのは小さい頃以来だ、みたいな話を。  そうしてすぐにコテージに帰ったけれど、ドアを開けたら室内に入り込んだ薄い月明かりに足が浮かび上がったので声を上げそうになった。よく見ると健助だった。 「おかえり」 「た、ただいま」  そこで待ってたというよりはたまたま通りかかったみたいな体勢で、じーっと無言でこちらを窺う仕草の後あくびを噛み殺しながら「おやすみ」と寝室へ戻って行く。 「……怒らなかった、な?」 「逆に怖いんだけど」  蕗口の笑顔が引きつっている。  気まずそうな彼とはトイレを理由に離れて、コンタクトを外してから追いかける。寝室に入ると今度蕗口は忍び笑っていて、健助が桐嶋を転がしているところだった。寝ていたはずの布団から大きくはみ出し俺が寝ていた布団も越えて、健助の布団でいびきをかいている桐嶋。なるほど、布団を侵食されたから起きてきたんだな、と理解した。  平和だなあ。

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