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「ちょっと顔貸せ」  唐突に呼び止められたのは夕食の後だった。まだ人が多く残る食堂で、しかも物騒な言葉使いだったので周りが騒つく。一緒に寮に戻ろうとしていた健助が無言で俺の少し前へ出るのに、袖を掴んで慌てて制止した。健助はまた無言で元の位置に戻る。 「……根津先輩、言い方がちょっと怖いです」 「ああ?あー、そうか、悪い。……ちょっと話せるか」  俺が虐められているとでも思われると困るので訂正してもらって、意識して明るい声で肯定した。根津先輩は少し眉を顰めた後、健助に視線をやって頭をかく。 「心配ならお前も……いや、ダメだな。悪いが借りてくぞ」  連れて行こうとして止めたことで用件が分かってしまった。彼に聞かれると俺の方が困る内容なので、「大丈夫、後でね」と声をかけて健助と別れた。 「どこ行くんですか?」 「空き部屋」  てっきり先輩の部屋に行くのかと思ったら素通りしたので、不思議に思って聞いてみるとそんな答えが返ってきた。寮にも空き部屋があるのか。ついて行った先、3階のちょうど真ん中辺りの部屋の前で先輩は立ち止まる。プレートを見ると確かに誰の名前も書かれていない。空室だからといって出入りが自由だとも思えないけれど、根津先輩は一切の躊躇なくドアノブを握った。 がちゃん! 「やっぱり鍵が……」 「中のやつ。1分待ってやるから出てこい」  先輩が声を張り上げるとどたどたと慌ただしく動く気配がして、しばらくして内からドアが開いたと同時に誰かが飛び出した。

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