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一瞬の沈黙があって、すー、と先輩が息を吸い込むのが分かった。怒鳴られる、そう思って反射的に握り拳を作って耐えようとする。けれど。
「駄々ぐらい捏ねろ。お前はそれだけのことをされたんだ。しかも逃げずに立ち向かい、先例を作った。なんで簡単に受け入れる」
怒鳴るなんてとんでもない。先輩はあの時の俺の行動を肯定しながら、諭すように問いかけてくれた。それが予想外で、俺は動揺してしまい、なんて返せばいいのかが分からなくなる。握った拳に力が入り、じっとり汗が滲んだ。
「怒ってるわけじゃない」
「……分かってます」
不意に先輩がもたれていた机から腰を浮かし俺の前に屈むと、なぜか頭を撫でてくれた。泣いている子供をあやすような仕草に、別に泣いてはいないのに顔を上げられず手の甲をしばらく見つめる。
「怯えるな」
「……根津先輩は優しいですね」
「堰」
先輩が俺の顔を覗き込もうとしているのが分かった。泣いていないのは声で分かったと思うけれど、我慢しているように見えるのかもしれない。今度は自分から顔を上げて、しっかりと先輩と向き合った。……前髪とレンズ越しではあるけれど。
「一つ、わがままを聞いてもらえませんか」
思い違いをしていたんだな、とこの時気づいた。心配かけたくないからと頼ることを避けようとしていたけれど、頼らないから心配されるんだ。少なくとも先輩に対しては、そうだ。
「見守ってもらえませんか」
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