204 / 266

20

 穏やかなまま勉強会の1日目は何事もなく終わった。みんな一緒に萩の寮を出て、それぞれがそれぞれの寮に帰っていくのを見届けてから俺も健助と藤寮に入る。玄関をくぐった後で、健助が立ち止まって後ろを振り返ったのに気づいた。ゆっくりと視線だけを180度動かしている。 「どうかした?」 「……いや、行こう」  そろそろ夕食の時間だ。一度部屋に戻って荷物を置いてこないと。 「侑哉」 「なに?」  部屋に向かいながら珍しく健助が話しかけてきた。元々無口な彼は、特に移動中他の何かに気を取られているような感じでほとんど喋らない。 「俺は物理攻撃なら自信がある」 「うん……うん?」  突然何の話だろうか。さっき玄関の外に何か居た?筋肉自慢大会の続き?いや、もう少し前の気がする。 「もしかして先輩との話聞こえてた?」  健助は黙って頷いた。野中先輩のよわよわ宣言の時、彼は俺の側には居なかったはずだけど、だからと言って遠くというほどでもなかったのは確か。部屋は教室よりも狭いし、十分聞こえる距離に居た。それで、今度俺はつよつよ宣言を聞くことになったのか。 「健助が強いのは知ってる」  強さをひけらかしたいわけではないと思う。張り合っているわけでもたぶんない。 ここで俺たちの部屋に着いた。扉を開ける。 「お前を守る」

ともだちにシェアしよう!