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たぶんシンプルにありがとうと返せばここで終わりで良かったんだろう。だけど俺は問いかけてしまった。
「何から?」
「全部」
一体どういう気持ちで、どんな顔で言ってるのか。俺は今、どんな顔でそれを聞いている?
「あはは……大きく出たね」
オリエンテーションでのことを知ったのだと思った。そうじゃなくても、俺や蕗口が何から身を守ろうとしているのかを知ったのだと。でもそういう次元ではなかったみたい。
部屋の入口に2人して立ったままで、お互い目も合わせずにこんな話をしていることがおかしい気がして、無意識に俺は健助のフードに手を伸ばした。
フードに触れて、掴むことを躊躇って、引こうとした手を健助が握る。
「健助」
フードの内へ招かれて、彼の頬に触れた。擦り寄るような仕草に息を呑んだ瞬間、その奥の瞳を見た気がした。
「っ、ごめん」
なんで謝ったんだろう?自分でも分からない。すごく動揺してしまって健助から手を退けると、俺は慌ててアコーディオンドアの向こう側へ逃げた。わざとらしくどさどさと机に荷物を置く。
「そろそろご飯の時間だよ、行かないと」
「そうだな」
背中からひどくのんびりした返事が来て、しばらくしてから隣のアコーディオンドアが開かれる音が響く。それでもかき消えないほど、なぜか心臓がうるさい。
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