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 居る。あの人が。  一瞬見た様子だと柊の寮の前で、誰かと話していた。友人だろうか?表面上はただ喋っているだけ。視線だけ鋭くこちらに向いている。気づいた途端に視線が刺さるように感じた。  俺だけを見ているのか、周りのみんなも見ているのか、そこが気になって仕方がない。俺以外に目が向くようならばなんとかしてこちらから仕掛けなければいけなくなる。  ただ今は手を出す気はなさそうで、この前と同じ見てるだけ。こうなれば我慢比べだ。 「気分転換できた?そろそろ戻ろう」 「おー、頑張るかー」  促すと最初に桐嶋が伸びをしながら寮へ足を向ける。 「喉も頭もすっきりしました!集中できそうです」  次に葉桜が。面識があったから心配だったけれど、どうやら2人とも気付いてないみたいで良かった。オリエンテーションの時、葉桜は最初の当事者で、桐嶋は飛び出した俺を追いかけた上先輩に手を出しそうになっていた。その2人が気づいたらテストに影響が出るに違いない。  そして不思議なことに、先輩と面識のない健助だけが確かな敵意を持って警戒している。 「健助」  大丈夫、行こう。ほとんど口の動きだけで伝えて先に行った2人を追うと、俺の背を隠すように健助はついてくる。  ひりつく喉は今飲めば咽せそうで、買ったジュースには結局口をつけられなかった。

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