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 あんな目に遭っても俺の心配をしてくれるのか。彼は本来結構義理堅くて一途なのかもしれない。そんな蕗口を利用したあの人を尚更許せないと思った。少なくともこの学園の中では二度と悪さできないように封じ込めたい。  俺の決意を試すように、まさにその夜動きがあった。  思えば昼からひどい雨で、暑いとさえ感じ始めていた気温もすっかり落ち込み、じめじめとした空気は気分まで暗いところへ引っ張り込むようだった。天候は人の心理に影響するらしいとはどこで聞いた話だったかな。  とにかく、何事もなかったのは夕ご飯を食べたところまで。一番遅い時間にお風呂へ行って出てきたら、脱衣所の服の間に雑に折られたノートの切れ端がねじ込まれているのが見えて、思わず周りを確認した。 「いつの間に」  湯船のお湯が減り汚れが出てくる遅い時間のお風呂はあまり人気が無く、今日もいつもと変わりない顔ぶれだったと思うけれど。  紙を開くと誰かの悪戯だった……なんてことはなく、しっかりと指示が書かれている。それはそうだ、と冷静な振りで服を着ると、指示に従い一人で寮を出た。  指示は具体的で、「今すぐに校舎の特定のトイレで指示書を流して処分しろ」というものだ。寮はまだ消灯前で出歩いててもぎりぎり不思議じゃない時間とはいえ、校舎は施錠されている。どこの窓が開いている、という情報付きだった。電話では迎えが来ると言っていた気がするけれど、遠回しな呼び出しだ。  もしかしたらまだ先生が残っているかもしれない、という期待も虚しく、しばらく歩くと真っ暗な校舎がぼんやり視界に浮き出てくる。

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