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「本当に開いてる」  指定されたのは校舎の南側、多目的室に近い廊下の窓。校舎内は外より少し高くなる作りなので、中からだと胸の高さでも、こちらから見ると目線とほぼ変わらない位置にある。窓越しの視界は少し埃っぽく不気味だ。  怯えてる振りでゆっくり開けて、手こずってる振りで何度も失敗してから侵入する。監視されてるのか分からないし無意味かもしれないけれど、少しでも時間を稼ぎたかった。中に入ってしまえば、トイレはすぐそこだから。  引きずるような足取りでトイレに向かい、2つあるうち手前の個室に入る。扉は開けたまま。ポケットから指示の書かれた紙を取り出してびりびりと破りながら便器へ落としていく。  今この瞬間後ろから攻撃されて、便器に顔を突っ込むような展開はどうにか避けたいな、なんて考えていたら最後の一欠片になっていた。蓋を閉めて、レバーを「大」に押す。水の流れる音が静かな校舎に響き渡って、見回り中の先生か警備員さんの耳に届けば良い。もう一回流してやろうか、とレバーに手を伸ばした瞬間、何かの気配がして、視界が真っ暗になった。 「声を出すなよ」  聞いたことのない声の指示に従い、黙って頷く。そこまで心配してないのか、猿ぐつわ的な物は咥えさせられずに済んだ。あれは口周りがべちゃべちゃになるから嫌いだ。  被らされたのは何かの袋。巾着型みたいで、首のところできゅっと絞られた。間抜けな今の自分の姿を想像して場違いに笑いそうになる。  …… ああ、迎えが来てしまった。

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