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 夢は見なかった。  やけにすっきり覚めた目に映るオフホワイトの天井。保健室かな。不快感はそれほど残っていなくて、でも身体はあちこちが痛い。  一瞬しか経っていないような気もするし、3日ぐらい寝たような気もする。答えを知りたくて、たぶん居るかなと思って呼んでみる。 「健助」 「侑哉」 「あはは、本当に居てくれた」  声の方に顔を向けるといつもより姿勢の悪い見慣れた姿がある。疲れているように見える。 「身体は?」 「うん、大丈夫。今何時?」  健助は携帯を取り出して、分かりやすいように画面を見せてくれる。半日以上経っていた。 「えっテスト受けてない」 「それは安心して良い」  やけにきっぱり言うなあ。先生と生徒会長の計らいでも期待していいのだろうか。後日個人テストとかにしてくれるとありがたい。 「みんなはちゃんと受けられた?」 「ああ」 「蕗口も?」  健助はなぜか答えず、不安になる。血が流れていた頭の怪我が悪かったんだろうか。俺のために無理して動いていたし、悪化してしまったのかもしれない。ただ健助の様子はそこまで深刻そうには見えない。 「……本人に聞いてやれ」 「え?」  健助の頭が俺の反対側へ視線を投げるように少し上がる。そういうことなんだろう、と視線を追いかけて傾けると、やっぱりそこには蕗口が座っていた。心配していた頭には包帯はなく、ガーゼが彼の髪の毛の隙間から見えた。良かった、外傷は思ったより軽症そう。 「蕗口」  声をかけるも返事は返ってこない。何を言ったら良いのか分からないみたいで、ただじっと複雑な顔で俺を見返してくる。

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