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マッサージを続けていると手が滑ってフードの中へお邪魔してしまう。そこは熱がこもりやすいのでほんのり温かく、時々触れる髪の毛の先がくすぐったくて、なんだか和む。
健助は頬の延長で耳たぶを触っている。髪をかけるように耳をなぞられてマスクをしていないことに今更気づいたけれど、蕗口には既に見られているし、健助は健助だからいいか、と自分でも驚くほどすんなり受け入れた。コンタクトもしていないけれど、彼がフードを脱がなければ目の色なんて分からないだろう。
「そう言えばすごくべたべただったと思うけど、健助拭いてくれた?」
ふと思い出して聞いてみると彼の動きがぴたりと止まってしまった。唇が開いたり閉じたりして、喉が上下する。そんなに言い澱むことだろうか。
「……ふ、いた、少し」
「着替えも?」
「……………………した」
なんでそんな悪いことしたみたいな空気を出すのか。おかしくなって、少し笑ってしまいながら「ありがとう」と返した。健助はやっぱり気まずそうに頬から手を引く。
「もう冷めた」
「そうだね、食べるよ」
ちゃんと美味しいうちに食べたい。あまり時間を置くと雑炊は米が水分を含みすぎて美味しさが半減するよね。
スプーンを取った俺にほっとしたような息を吐き、健助は椅子に座り直すと視線を自分の足元に落とすように下を向いた。本当にどうしたのか。食べ終わる頃には戻るだろうか。
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