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「居場所もそいつが。侑哉だけって言ってた」
「なにが?」
「心配してくれたのが」
ああ、あの時声をかけたのは失敗ではなかったらしい。話しかけたら聞こえなくなったのは、単純にびっくりしたからなのかな。お腹に優しそうなものがあれば差し入れたいなと思った。名前を聞こうとしたのを先読みしたように、健助は続ける。
「生徒会の中でも正体を知っているのは少しらしい。俺も、電話で話しただけだ」
なにそれ秘密組織っぽくてちょっとわくわくする。つまりあまり探らない方が良いんだろうな。
ただ、もしかしたら俺のことも知られているのではないかと不安が過った。生徒会はどこまで校内の情報を持っているのか。張り巡らせた情報網があって無道先輩を抑制できなかったのはどうして。
「腹いっぱいか?」
考え込んで手が止まった俺を心配して健助が声をかけてくれた。首を横に振って、食べるよと返す。口に含んだ米は、心なしかさっきより味が薄かった。
「みんなは無事? 協力者は?」
「それも生徒会が動いてる。大丈夫だ」
「俺の欠席理由って何になってる?」
「風邪」
いくつか質問を繰り返して、ご飯と一緒に流し込んで消化していく。最後の質問で全て飲み込んだ。うん、もう大丈夫そう。
みんな、特に葉桜には、何があったかなんて知らないままで過ごしてほしいから。
「……健助は? 俺に質問ある?」
ごちそうさまの後で聞いてみたけれど、彼は驚くほどあっさりと答えた。
「ない。無事ならそれで良い」
健助に無事と言ってもらえたこの時、自分が無事だったと再認識できた気がして、一気に力が抜けてベッドに倒れ込んだ。
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