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ゴールテープを切らないで
一連の騒動が終わって半月も過ぎれば、体のあちこちにできた痣はすっかり薄くなった。じきに体育祭の練習が始まり汗ばむ季節がやってくる。跡が見えると健助や蕗口や根津先輩も辛い表情を浮かべるので、あれからほとんど肌を晒さないように過ごしていたけれど、そろそろ半袖を着ても大丈夫そうで良かった。
と、体育祭の話を興奮気味にしている桐嶋に相槌を打ちながら考えていた。
「コンセン、絶対また忘れてると思う」
ほぼ確定に近いニュアンスだけれど、俺もそうだろうなと薄々思っている。金剛先生はたぶん行事への関心が低い。生徒以上に熱が入るタイプと、淡々とこなすタイプの先生が居るとするなら、間違いなく後者の人だ。
「全員席に着けー」
がらりと扉が開いて、ちょうど先生が教室に入ってきた。そのまま席を離れていた生徒が戻るのを待つことなく点呼を始める。お互い流れ作業と化していて淀みなく終えると、先生が注意事項など口にする前に、すかさず桐嶋が声を上げた。
「コンセン、体育祭の種目決めいつやんの?」
「体育祭……?」
反復したこの時点でものすごく既視感を覚えたんだけど、あの時と違って先生は思いもよらぬ言葉を続けた。
「この前やらなかったか?」
その瞬間、一瞬で教室がざわつく。何言ってんの? と笑う人、オリエンテーションと勘違いしてるんじゃないかとつっこむ人がほとんどの中で、「もしかして去年の話をしてるんじゃ……?」と誰かがぼそっと呟くと、今度は一気に心配ムードになった。
「嘘だろせんせー、ボケるにはまだ若過ぎる……」
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