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先生はめんどくさそうに頭をかいてため息をつくと、「良いかお前ら」と深妙な声を出した。
「老いは平等に訪れる」
誰ともなくごくりと唾液を飲み下す音が聞こえた。騒がしい教室がしんと静まり返り、先生の虚ろな目に注目が集まる。
「20年なんてすぐだぞ」
怖い話大会を開いた時のどの怖い話よりすごい悲鳴が上がった。半分は茶化す声だ。当たり前のことを言われている。分かってはいても実感が湧かないもので、たぶん、それが湧いてくる頃には手遅れなんだろう。先生の諦めたような表情を見てそう思ってしまった。
「そういうわけで今のうちに青春しておきなさい。体育祭のことは午後決めます。以上」
早口で強引にまとめると先生はさっさと教室から出て行った。20年なんてまだまだ先じゃん、と閉じた扉を不思議そうに見ていた桐嶋は、すぐに話題を体育祭に戻す。ぶれないなあ。
「堰! 体育祭の種目なに出る?」
「無難にリレーとか」
そもそもなんの種目があるのか知らないんだけど。リレーは間違いなくあるだろうし、2番手3番手とか目立たないところが良いかなと思っていた。ただいつものように同室者からの情報を得ているだろう桐嶋が満面の笑みを浮かべたので、何を言おうとしているのか分かってしまった。
「やっぱり堰は足使うやつだよな! 2人3脚も出ようぜ! オレと!」
「えっと、もしかして複数出ないとだめなやつ? だとしても他は走らないやつにするから……」
「えっ! じゃあリレーやめて2人3脚?」
思わず頭を抱えてしまった。これは断れないやつだ。どうしても嫌というわけではないのだけど、俺じゃ桐嶋にもったいない。文字通り足を引っ張ることになる。
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