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次の日から朝、2人3脚に向けて瞬発力を上げるための走り込みを開始した。学園の敷地を何周かしてから寮の裏の公園でダッシュを何本か。公園では蕗口が付き合ってくれると言うのを足の長さが現実的ではないかな……と断ったけれど、足を縛らなくても呼吸を合わせる練習にはなるだろう、と時々隣を並んで走ってくれる。その近くで見守るように、健助も筋トレをしていたりする。
「宗弥ってほんと過保護だよな」
懸垂している健助を横目に、シャツの裾で額の汗を拭いながら蕗口が呟いた。感心したような感じでも、かと言って呆れたような感じでもなく、ただ当たり前の事実を言ったという表情。
「まあ、今ここにいる時点で俺も他人のこと言えない自覚あるけどね」
続いた言葉に含みがあるように聞こえてじっと見ていると不意打ちでウインクをもらって、思わず手で遮る。分かっててやってるんだろうな。からかっているわけじゃなくアピールなんだということを俺も分かっているから、意識してしまう。
「……お兄ちゃんが2人も居て嬉しいなあ」
誤魔化しに蕗口は喜んで、健助は照れた。健助、弟くんと俺を重ねる割には「お兄ちゃん」呼びするといつも照れる。喜ぶ蕗口も謎だけど。
「なんか侑哉にそう呼ばれるとなんでもしてしまいそうなんだけど。パパ活のパパの気持ちってこんな感じ?」
「ちょっとよく分からないけど大丈夫?」
「大丈夫じゃない。捨ててくる」
いつの間にか側まで来ていた健助が腕を蕗口の首に引っかけるように回して引きずって遠ざかっていく。あの長身をいとも容易く。
「そんなゴミみたいに」
苦しそうに呟く割には笑顔の蕗口。止めなくても大丈夫そう。
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