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蕗口は肩の荷が下りたように明るくなった。というより、邪気がなくなったと言った方が良いかもしれない。元々よく笑うし明るい人だったけれど、笑い方が年相応になったと思う。
ただ一つだけ引っかかっている。襲われる前に何度か口にした「気になること」がなんだったのか。解決したから良いかなとも思った。でも、そうしない方がいい予感と、話してくれる気がして待っている。
「あれ、蕗口は?」
しばらくして戻ってきたのは健助1人。後から追いかけてくる様子もないので聞いてみると、当たり前のように健助は答える。
「捨ててきた」
「え、本当に?」
冗談だと思ったのに。健助が満足気に頷くので、脳内で彼に首根っこを掴まれてぽいっと放られる蕗口の姿が浮かんで、不謹慎かもしれないけど笑ってしまった。相手が他の人なら引きずっていくことさえ大変だろうにな。
「ちょっと見てくる」
そろそろ授業の用意もしないといけないし、戻ってこない蕗口の様子を見に行こうとすると「行くな」と健助に引き止められた。
「気を引こうとしてるだけだ」
そうなのか? と、もう少し待つと砂を払い落としながら諦めたように蕗口が出てくる。困ったお兄ちゃん。
「……慰めてもらおうと思ったのに邪魔するなよな」
と言いつつこちらにまっすぐ向かってきて、すっと俺の前に立った健助に止められた。
「汚れた服で侑哉に近寄るな」
「誰のせいだよ」
「自業自得」
そんなやりとりを聞きながら「仲が良いな」と呟いたら同時に否定されて、笑ってしまう平和な朝だった。
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