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 2人3脚しか練習してないしスタミナが……と決めかねながら、手を振る桐嶋に振り返す。隣で寮長も拍手を送っている。 「参加者にはランチ無料券1週間。あと、出てくれるなら堰には寮長である俺に何でも頼める権利をやろう」  無料券はとても助かる。それに付け足された寮長に何でも頼める権利って? 小さい子が父の日や母の日にプレゼントするような単語に思わず寮長の方を見た。 「なんでもですか?」 「何でもだ」  俺がそれを悪用するだなんて考えが1ミリも無いような、相変わらずの爽やかな笑顔。例えば宿題を代わりにやってくださいだとか、部屋を一番日当たりが良くて綺麗で便利なところにしてくださいとか、そんなことでも受け入れるのかな。 「寮長の権限でできる範囲なら寮部屋の移動でも良いぞ」 「あはは……」  考えていただけで望んでいるわけじゃないけれど、頭の中の答えを言われてしまって笑って誤魔化した。 「毎年1年生から寮長がバトンを受け取ってアンカーを務めるんだ。堰から受け取るのを楽しみにしている。俺に繋げてくれ」  バトンを受け取ろうとするように目の前に手を伸ばされる。なんだか言葉の選び方にぐっときて、吸い寄せられようにその手を取った。 「努力義務で良いなら、出ます」  結果が残念でも怒ったりがっかりはしない人だ。特典に釣られたわけではないけれど、お世話になっている寮長からのお願いなので頑張ろうと思った。承諾すると乗堂寮長は嬉しそうに笑う。 「堰なら、そう言ってくれると思った。ありがとう」  立ち上がったその背中にちょうど太陽の光を浴びて、寮長の笑顔は輝いていた。

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