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「まあこれはこれで嬉しいけど」  髪がぼさぼさになって体が揺れるほどかき回されても受け入れている野中先輩を見ると、普段の根津先輩は印象よりもずっと塩対応らしい。抵抗がないので、暴風に立ち向かったみたいな髪型になってようやく根津先輩は手を引いた。 「後輩に気を遣わせるな」  ……もしかして俺を気遣ってくれたのかな。だとしても。 「それ根津くんが言う?」  ずばっと返した野中先輩と同じことを思ってしまって、察したのか先輩の視線がこちらに向いた。目を逸らしてしまった。先輩は怒らずそのまま立ち上がって、空の食器が乗ったトレイを持ち上げる。 「先に行く」 「はーい」  ひらひらと手を振って見送る野中先輩は一緒には行かないみたいだ。 「根津くん今日機嫌が良いみたい」 「そうなんですか?」 「大型犬並みのスタミナだから、思い切り体動かせるの楽しいんだよ」  返事がしづらい例えだなあ。ただ運動に関しては根津先輩と桐嶋の話が合いそうだと思った。この2人の競走がどこかで見られたら面白いだろうな。 「機嫌が良いと言えばうちの寮長も誰かのおかげでご機嫌だね」 「誰ですか?」 「またまたあ、堰くんでしょ」  意味ありげにくるくる回しながら指さされて、ほんの少し首を傾げた。寮長は比較的いつも爽やかな笑顔を浮かべているし、普段と変わりなく見えた。もし野中先輩が言うように機嫌が良くて、それが寮対抗リレーの1年走者が決まったことが理由ならうれしいけれど。先輩は分かってないなあ、と言いたげな苦笑いを浮かべる。 「まあとにかく、そんな我らが寮長の期待に応えようじゃない」

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