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 蕗口が手を振ってくれたので振り返すと、やりきった表情でにっこり笑った後健助の方を指さした。出番を教えてくれたのかな。頷いて素直に健助へ視線を移すとすぐに、どん、と大きな太鼓の音が響いて健助が顔を上げた。  たぶん、俺を見た。その瞬間に分かりやすく唇がカーブする。笑った。気づくとそこから健助から目が離せなくなってしまった。  相変わらずフードを被ったままでも長ランを着こなして、裾をはためかせながら誰よりも力強く重い旗を振る姿が目に焼き付く。地面すれすれを這うように。細い縄を振り回すような軽やかさで頭上を回転させて。  見入っているとぱっと旗がこちらに向けられて、健助の唇がはっきりと俺の名を呼んだ。 「侑哉」  ふわりと旗が宙を舞い、一回転して健助の手に戻ると一際大きな太鼓の音と同時に地面に突き立てられた。揺れる旗の向こうから健助が問いかける。 「見てたか?」  頷くと、満足そうに笑う健助。2年生の応援が遠くに聞こえる。結局全ての応援が終わるまで、お互い見えていない目で見つめ合っていた。  応援団が退場していく。ようやく目線を外して、息を吐く。あれ、いつの間にか呼吸が浅くなっていたみたい。深呼吸を何度か繰り返している間に、健助と蕗口が戻って感想を聞きに来た。 「どうだった? 中々様になってたでしょ」 「うん。2人とも格好良かったよ」  2人とも、に健助が反応したけれど、特に機嫌を損ねた様子はなく、黙って額の代わりに腕に巻いていたハチマキを外して俺に差し出した。 「もらってくれ」 「あ、待った、俺も」  続いて蕗口も額のハチマキを外して俺に差し出す。これを受け取ったらできたばかりのファンクラブを敵に回さないかな……。

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