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説明を聞いた健助が隣で「失敗した」と呟いた。障害物競走好きじゃないのか、それともパン食いの方かな。一緒にアスレチックやったし、少食でも潔癖症ってわけでもなかったはずだけれど。
「大丈夫? なにか苦手だった?」
「いや……、なんでもない。大丈夫だ」
「そう?」
一瞬どこかを見た後で首を振る健助。なんとなく歯切れが悪い感じはもしかして……苦手なのはぐるぐるバッドだったのかも? あれは人によっては、と言うよりほとんどの人は泥酔したみたいにふらふらになってしまうから、苦手でも不思議じゃない。
「侑哉こそ、眼鏡大丈夫か」
「網に引っかからないように気をつけるよ」
言われて深く眼鏡をかけ直したところで、蕗口から声がかかる。
「始まるよ」
入場の間アナウンスされた補足によると、競技は学年ごとに分けられ、3年生から順番に行うらしい。デモの代わりで見本としての意味があるみたい。9人の参加者の中には、萩の三坂寮長が居る。知ってる人は他に居ないので三坂寮長を応援しよう。
「位置について、よーい……どん!」
号砲と共に一斉にぐるぐると回り始めた。落ち着いて10回こなした三坂寮長は、バットを手放し走り出した一歩目でそのまま優雅な感じに倒れてしまった。きょとんとした後みるみる口角が上がって、どうやら自分でツボに入ったらしいと分かる。我慢しようとしてるのか口が波線になっている。頑張ってふらふらしながら立ち上がって、そのまま隣の人にぶつかってまた倒れる。
……だめかもしれない。敗因はツボが浅すぎることかな。
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