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第2話 生活

奇妙な共同生活が始まった 暮らしてみると西園寺一臣は生粋のお坊ちゃんで生活能力は全くなかった 霞でも食べてる止ん事無き御方みたいに… 生活は人任せだった 家に帰れば着替えは脱ぎっぱなし 食べた食器は出しっぱなし 流石に‥‥水森はキレた ソファーでテレビを見ている西園寺の足を蹴り飛ばすと 「てめぇ、俺はお前の家の使用人じゃねぇんだよ! 自分の着た服や、自分の食べた食器は片付けやがれ!」 と怒った 西園寺は何が怒ったのか解らず 「健、痛いって‥‥何で怒ってるのか教えてくれよ!」 と哀願した 水森は生活のルールを作った まずは洗濯 °色物と下着は別々の洗濯ネットに入れる! °洗濯機は水森が回すから、干した洗濯物は夕方には取り込む! *但し、雨が降りそうな時は即座に取り込む 次は食器 食器は食洗機に放り込みたいボタンを押す 食器が少ない時は水に着けて置いておく! 朝と夜は必ず一緒に食事を取る 監視する為に一緒の部屋で寝る(原稿を書く時は好きな所で書く) 共同生活をする以上、協力する 嫌なら担当者は脇坂編集長になる と半ば脅して認めさせた 西園寺は意外な事に、すんなり納得した 掃除も洗濯も食事も、やらせてみて解ったのは使えない……と言う事実だった それでも水森は西園寺にやらせた 少しずつ西園寺は生活を覚えていた 「ほら皿出せよ!」 水森が謂うと西園寺は食器を水森に渡した 西園寺は短い髪をしていた 寝てる時、水森の首に搦み付いて死にそうになった……から、翌朝、ぶちた切ったのだ その後、水森が綺麗に整えてくれた 髪を切る手付きがやけに慣れていて上手だった…… が理不尽だと思った 「………首が……スースーする」 だから西園寺は少しだけ文句を言った 「慣れるって! ほら出来上がった、皿!」 水森は料理が出来たから皿を出せと要求した ブチブチ言って西園寺は皿を出した 「………ホビットは優しくないよな……」 すると水森から蹴りあげられる 「オレは優しい男じゃねぇか! お前の世話をしてやってるんだぜ?」 「………世話……してないじゃん 朝弱いから起こしてやってるの俺じゃん……」 西園寺は生活を始めて、水森が低血圧なのを知った 中々起きない水森を起こしてやっていた 「………減らず口叩くなら放り出すぞ!」 「健、皿出したぜ!」 出したら皿の上におかずを乗せる 水森の料理は美味しかった 豪華な料理ではないけど、温かい味がした 「今日は書くのか?」 水森は問い掛けた 「締め切りまでまだあるだろ?」 「締め切りを視野に入れて書いてくれ」 「俺ってナイーブだから環境が変わると書けなくなるんだよ」 「………ボディーソープか?」 「誰が弱酸性だ!」 「ほれ、食っちまえ」 水森は西園寺を急かした 「なぁ健は仕事か?」 「会社に行って西園寺先生の原稿の進み具合を編集長に知らせて資料を探しに行く予定です」 仕事モードに入ると水森は西園寺先生と呼ぶ 「英国貴族の資料も頼むな」 「解りました 今夜は何が食べたいですか?」 「オムライス」 「帰ったら作ってあげます」 水森は支度をして会社へと向かった それを見送り西園寺は水森との生活を振り返った 誰かと一緒の空間で生活をすると言うのは初めてだった 気疲れするかと想ってたら、案外抵抗なく入れて驚いた 物心着いた頃から‥‥西園寺の回りには世話を焼く人間なんていなかった‥‥ こうして誰かと生活なんて始めてだった マンションを買って早々に出て逝くつもりだった‥‥ 最初は嫌がらせのつもりだった だけどいつの間にか‥‥‥この生活が当たり前になりつつあった 水森の家で暮らし始めた晩に、魘された声に、西園寺は目を醒ました 毎日じゃない 時々……悪夢に魘されて泣き叫ぶ水森がいたのだ まるで子供のように震えて…… 怯える水森の姿を何度も見た またかと飛び起きて水森を見ると、苦しげに足掻いて泣いていた 「おい……」 揺すって起こすが起きるなり 「触るな……オレに触るな!……」 と水森は西園寺の手を振り解き……暴れた おい……何だよ…… 西園寺はどうしていいか解らずにいた どうしたらいい? 解らない‥‥ こんな時、人はどうするだろ? 西園寺には解らずにいた 水森の体躯は汗だくだった 汗を拭こうとして胸元を寛げると…… 水森の体躯は傷だらけだった 「………何……これ……」 痛々しい傷が……水森の体躯には着いていた 編集部で時々見るホビットは何時も元気で誰からも愛されていた 水森のこんな姿は‥‥想像すら出来なかった 水森は西園寺が選んだ編集者だった 編集長の脇坂が、前任の編集者が退社する時、後任は誰にしますか? と、問い掛けた 誰と言われても答えられずにいると脇坂が 「誰か決めないと僕が担当者になるしかありません」と謂われた 脇坂が担当なんて冗談じゃない そう言われ西園寺は 「ホビット……」と口にした 「……ホビット?」 「ん!あの元気な小さい奴」 「あぁ……水森健ですか 彼が担当者で良いのですか?」 「健って言うのか アイツだと見てて飽きないから…」 西園寺が言うと脇坂の表情は翳った 「………彼は……色々と複雑でしてね…… 君が想う程単純でも簡単でもない」 脇坂はそう言った それが何を言っているか、その時は解らなかった 太陽みたいに明るい水森 健と謂う人間に惹かれていた 傍に置いてみたいと想った 脇坂は「諾」とは謂わなかった だけど西園寺は引かなかった 「健しか要らない 担当者はアイツにしてくれ」 無意味な押し問答が繰り返され、脇坂は折れるしかなかった 「………解りました ですが、彼が嫌だと謂ったなら‥‥‥永久に貴方の担当者にはしません、 彼を苦しめるなら……この世から抹殺しますよ? 覚えておきなさい!」 脇坂に釘を刺されて担当者の約束を得た 単純でも簡単でもない…… 複雑な闇を纏っている‥‥ そんな事は水森と暮らせば短時間で……解った 内に秘めた翳りや苦しみを垣間見た 取り敢えず起こすしか思い付かなかった 「……健…けん……健ってば……」 「……ん……ゃだ……殺さないで……」 泣いて哀願された 胸が痛くなる声だった 殺さないで‥‥‥そんな事を謂わなければならない‥‥事があったのか? 西園寺は水森を起こした そんな苦しみを追い払うかの様に水森を起こした 「健!起きろ!」 体躯を揺さぶり起こした 水森は何が起こったのか解らなかった… 「………西園寺先生……」 「一臣!そう呼べって言ったの忘れた?」 「……人を呆け老人みたいに言うのは止めて下さい…」 「敬語も止めてくれって言ったよな?」 「………今何時?」 「夜中の二時……」 「何でこんな時間に起こすんだよ…」 水森は何となく解っていて呟いた‥‥ 「俺、ひとり寝は慣れてないんだ 添い寝しろよ!健」 西園寺の存在に救われる‥‥ 西園寺はこうして水森が魘されると起こして添い寝をしてくれるのだ だけどソープとキャバクラ好きな男だ! 釘はどんだけ刺しても大丈夫と謂う事はない 「………変な事したら握り潰すからな!」 「………解ったよ……うっかり触るのは許してくれよ……」 「………オレ、一臣の下もの世話する気ないから…」 「世話しなくても良いさ 俺が世話してやるからな」 「お前が世話しなくても大丈夫だ 一臣の癖に生意気な!」 水森は西園寺の唇を摘まんだ 「痛い……」 「無駄口叩くな!寝るぞ!」 西園寺は水森を無理矢理ベッドに押し倒した 「………おい……」 抱き締められて水森は文句を言おうとした 「気にするな 抱き枕にするだけだ」 そう言い西園寺は水森を抱き締めて…… 勝手に眠りに落ちた 朝、ぬくもりに擦り寄ると…… 西園寺の胸があって水森は飛び起きた まさか……抱き締められて寝ちゃうとは……不覚だった 水森は朝食を作りに行った そして朝食が出来上がると、西園寺を起こした 「一臣、一臣ってば……」 「………起きたくない……起こすな…」 水森は思わず西園寺をポコンっと叩いた 「朝食出来たぞ、起きろってば!」 「………眠い……」 「ほら、顔洗っておいで!」 「甘い卵焼きある?」 「あるから早くおいで!」 西園寺はモソモソとベッドから起き上がった 寝ぼけた西園寺が顔を洗ってテーブルに着く 彼の最近の癖は……暇があれば首元を触っていた 「願掛けとか……してたの?」 だとしたら……自分は西園寺に対して大変な失礼な事をしたのだと想う 「……え?……何が?」 「髪、首元を触ってるからさ…… 相当長い間伸ばしてたんだろ? だからさ、願掛けとかしてるんだったら、悪いと想って……」 そこまで聞いてやっと水森の言わんことが理解できた 「誰かに髪を触られるのが嫌なんだよ 触られたくねぇからな切らずにいただけだ……」 触られるのが嫌だから? それで……あれだけ伸ばせるのか…… 「願掛け……とかじゃない?」 「俺は他力本願はしねぇんだよ!」 「ならオレ……触っちゃったぜ?」 「健は大丈夫だからな、これからは健が切ってくれ」 改めて見てみると西園寺は本当にいい男だった 黙ってても女が放っておかない…… 「首……何か巻く?」 「要らねぇよ それより甘い卵焼き!」 「お昼はオムライスが入ってる」 「………健は週末会社か?」 「何か用ある? なら都合つけるけど? オレは今お前の専属だからな!」 「美術館に行きてぇんだよ」 「なら週末は美術館に行こうか」 水森は元気に笑った この笑顔しか知らなかった 夜の……殺さないで……と哀願して……苦しむ水森は嘘の様だった 目が離せない 水森の過去が知りたい訳じゃない…… 知らなくてもいい過去なんて不要だった 支えてやりたいのだ 今にも崩れ落ちそうな危うい脆さを持つ水森を支えてやりたい…… それしかなかった 西園寺はリビングでPCを駆使して作品を書いていた 水森はその横で資料を揃えていた 「なぁ健」 「何ですか?」 「水道代節約の為に一緒に風呂に入ろうぜ!」 「…………背中洗って欲しいんでしょ?」 「………頭も……」 「逆上せるから嫌だ」 「……良いじゃん水道代節約になるんだし」 「光熱費払って下さいね!」 「…………良いけど? 食費も光熱費も何でも払うよ」 払うと言ってるのに取らないのは水森だった 「………そのうち纏めて徴収します」 どうせ、そんなに長い居候になる訳ではない だったら‥‥‥そんな事はどうでも良かった 「早く風呂に入るぞ!」 西園寺は節約だ!と言い一緒にお風呂に入ると聞かなかった 渋々、水森は入浴の準備をした そして一緒に風呂に入る 水森はお湯に浸かった後、西園寺の頭と体躯を洗ってやった 「股間は自分で洗えよ!」 「皮捲って洗ってくれよ」 「……嫌だ、潰すぞ!」 「それは嫌だよ なら健の洗ってあげる」 西園寺はボディーソープを手に取ると、健のペニスを握り締めた 「……ゃ……止め……」 「綺麗に洗わないと病気になるぞ!」 「放っておいて下さい!」 「気にするなイケよ!」 「……ぁ……あっ……あぁ……」 水森の口から苦しげな喘ぎが漏れた 「どうしてお前は……」 「健、洗って……」 降参するしかない状況に追いやってでも……自分の我は通す…… 水森は降参して、西園寺のペニスに触れた 「……健、後ろって使った事あるの?」 「………嫌だ……お前のやたらとデカいから……」 「健……解すから……」 「ソープ行けよ! 好きなんだろ?」 「好きじゃない……出版社の奴とか、中野の奴がムカついたから当てつけに行ってただけだ…」 「………お前……犯りたがるな……」 「犯りたい! 健を感じさせてやりたい」 「………オレは……そう言う行為は……」 人形にしかなれない 不感症なのだ いいや…… 感じたくないのだ…… こんな体躯など要らない……と想っていた 「………なぁ……一臣……」 「何だ健?」 泡を落として、二人して湯船に浸かった 西園寺に後ろから抱き締められて…… 居心地が悪い 西園寺はこの家に住み始めた翌日から、水森と一緒に風呂に入っていた 「……あのさ……オレの体躯……」 「美味しそうだな 特にこの乳首……舐めて良いか?」 「……こんな汚い体躯…見てて耐えれる?」 西園寺は水森の乳首をペロッと舐めた 「俺を好きになれ健 そしたら最高に幸せな恋人にしてやる」 年下の風俗大好きな奴の癖に…… 本気になれば泣きを見る 解っていて溺れる奴なんていない こんな汚い体躯の自分なんて…… 誰も好きになってくれない…… 「逆上せた……」 「じゃ、出よう! 俺はもう寝る 健も一緒に寝ようぜ」 風呂から上がると水森は西園寺の体躯を拭いてやった 自分の体躯を軽く拭くと、水森は西園寺の髪をドライヤーで乾かした 西園寺は水森の体躯をしっかりと拭いてやり、ドライヤーで乾かしてくれた 慣れない手付きで一生懸命触ってくれる手が…… 水森は嬉しかった 二人して寝室に向かい、ベッドに潜り込んだ ベッドに入るなり西園寺の腕が水森に絡み付く 「………一臣……」 「何だ?」 「………オレって寝相悪くない?」 「何で?」 悪夢に魘されて飛び起きたベッドは散乱して……暴れた形跡があった 西園寺が来てから…… それがなくなっていた なくなっているのか…… 西園寺に被害を出しているのか……? どちらかしかない だから水森は思い切って口にした 「大丈夫だ健 俺が抱き締めててやる」 そう言い優しい腕に抱かれた 水森は瞳を瞑った 優しい帳が降りてきて二人を包んだ 水森は眠りに落ち 西園寺は水森の眠りを守るかの様に抱き締めて眠った

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