5 / 9

第5話 俺が欲しいって叫べ

水森と西園寺が姿を消した2日後 西園寺グループの株主総会が開かれた 国内最大のコングロマリットを誇る西園寺グループの株主総会と謂うだけあって盛大に行われていた グループ企業の中にレコード会社や出版社も保有しており、所属する歌手が前座のステージを華やかに飾っていた 華やかな舞台に西園寺グループの権力を誇示していた その株主総会に招待もされていないのに、株主総会の見届け人として円城寺貴正が飛鳥井家 現真贋 飛鳥井康太と伴侶の榊原伊織が姿を現した 西園寺康三はキナ臭い何かを感じていたが‥‥相手は大物、手出しをすれば確実にこっちの息の根を止められると静観するしかなかった そんな中秘密裏に西園寺勘三郎と冴子が横浜アリーナへと向かった 警察とSPにガードされ横浜アリーナの一握りの関係者しか知らぬ秘密通路を使ってアリーナ内に待機をする事になった その事を西園寺康三は知らなかった 西園寺康三は株主総会までに、何が何でも西園寺勘三郎の息の根を止め、一臣を抹殺しろと指示を出したのに‥‥ 未だ殺害の報告は入っては来ていなかった このままでは西園寺の総てが手に入らなくなる‥‥ 焦りが康三を追い詰め苛立たせていた 前座の歌謡ショーを終えると、株主総会が始まった 株主が集まり席を埋めていた 株主総会をやるに当たって康三の息の掛かった株主を用意した ‥‥‥‥が、未だ西園寺勘三郎の力は偉大で、勘三郎の株や全権は手中に入れられずにいた 参列した株主達を持て成した後、株主総会は始まった 株主総会を仕切ったのは円城寺貴正だった それを指示したのは飛鳥井康太だった 「貴正、始めろ!」 飛鳥井康太の一声で、円城寺貴正は立ち上がり 「これより西園寺グループの株主総会を執り行います」と宣誓した 西園寺康三は息の掛かった株主が事を進める筈だったのでは?と焦った 何かが起こっている? 自分の知らない何かが‥‥‥‥ 康三は自分の描いた絵図からかけ離れて逝くのを感じていた 円城寺貴正は康三の意思とは関係なく、進行して逝く 「今回の株主総会では大幅な役員人事が御座います それを株主の皆様にお知らせ致します 西園寺グループはこの株主総会の前日、役員召集致し、先の決定事項を満場一致で可決させました 決定事項は次の通りです 西園寺康三さんは役員からも社長の椅子からも下りて戴く事になりました 康三さんの奥様も同様、副社長の席から下りて戴く事になりました!」 円城寺は意図も簡単に、康三にそう告げた 「ちょっと待て!わしは何も聞いてはおらぬ! それは不正な役員会議なのではないか!」 康三は円城寺に食って掛かった 「貴方に役員の権利はない! たかが元夫にそんな権利があると想っている方が片腹痛いだろうが!」 円城寺はキッパリ言い捨てた 「わしの名は役員の上位、社長の席に在った筈だ! その役員会議は何故、社長のわしを通さないんだ?」 「西園寺グループ会長 西園寺勘三郎さんの命で貴方の名は総て排除致しました!」 康三はわなわなと怒りに震えた 「部外者は黙れ! 何を勝手に人事の発表なんてする事は許さん!」 怒りまくって掴み掛からん勢いだった 円城寺貴正はSPに護られて立っていた 近寄れば確実に康三を排除するだろう 円城寺は皮肉に唇の端を吊り上げ 「康三さん、今後貴方は西園寺を名乗る事は許しません! 西園寺の名は剥奪致します 後程、西園寺一臣、西園寺勘三郎殺害未遂の罪状で令状を持って警察が参ります 観念したらどうですか?」 円城寺貴正は一喝した 株主総会の席に水森健は列席すべく姿を現した 横には西園寺一臣を連れていた 水森は飛鳥井康太の前に立つと、跪いた そして康太の手の甲に口吻を落とした 「お久し振りです」 康太は遥か昔に目にした存在を懐かしく見ていた 「健……お前を出させるつもりはなかった……」 水森は首を振って 「………オレが出て来ねば終わりません…」と飛鳥井家真贋に告げた 「だが……出れば……平穏な日々は終わるぞ?」 その言葉の重みを水森は受け止め、覚悟の瞳を向けた 「この命……賭したとしても…… 護りたい存在がおります」 「………大切か?」 「はい!この命よりも大切です」 「………無傷では終われなくても?」 「ええ。オレは……護りたい…… その為にならなんでも致します」 一歩も引く気のない瞳に康太は諦めるしかなかった 「………莫迦だな……健は……」 「はい。最初で最期の……存在です」 「西国院 健……お前は終わらせに来たのだな」 「はい。これがオレの最期の仕事で御座います」 「…………悔いなくやれ! 見届けてやる!」 水森は小さな声で 「ありがとうございます炎帝……」と呟いた 水森は立ち上がると西園寺康三の前に立った 「貴殿の野望は10年前から解っていた その野望を阻止すべく、翁と冴子様を隠したのは俺だ! 総てはお前が西園寺一臣を亡き者にしようとした時に発動される様に仕向けた 今 時は満ちた お前は滅びの一途を辿るが良い! お前ごときに西園寺一臣は殺させない!」 水森は言い切った 「………貴様………何者だ!」 康三は訝る瞳を水森に向けた 「西国院 健! 先見の眼を持つ神と崇め奉られた存在 それが俺だ!」 「…………小僧が………計りおって!」 怒りにわなわな戦慄く西園寺康三は、怒りに任せて水森を壇上から突き飛ばした 水森は何が起こるか知っていて、その場に立っていた 微笑み立っている水森は神々しかった 水森の体躯は突き飛ばされ‥‥壇上下へと落下した ドターン!と謂う音が響き渡った 水森はテレビ中継されいるのを知っていて、康三に手を出させ息の根を止める事にした 「健!」 西園寺は血相を変えて壇上を下りて水森に駆け寄ろうとした だが………それを…… 榊原伊織が止めた 「行ってはいけません」 「何で!健!健!健の傍に行かせろ!」 西園寺は叫んだ 水森の体躯は壇上下で力なく横たわっていた 一瞬、意識を失う位の衝撃に襲われた 水森の頭からは鮮血が流れて、朱く染まっていた だが気力を振り絞って立ち上がると 「笑止!総ては決められし理(ことわり) 歯車は回り始めたのだ! もう誰も止められない 止まった歯車を動かしたのはお前だ お前が欲をかいて西園寺を手中に納めようとしなければ…… 歯車は回る事などなかった 欲に溺れ総てをなくしたな! 恨むなら己の愚かさを恨むが良い この仕事は西国院 健最期の仕事だ しかと皆様に見届けて戴く義務がある 貴方はもう終わりだ」 水森の服が真っ赤に染まった 誰も水森に近付く事すら出来ずにいた それ程の気迫で水森は幕を下ろしたのだ 水森は円城寺に 「円城寺貴正さん 株主総会の決断を伝えて幕を引いて下さい! 貴方は総てを見届けられた! オレは最期の仕事を遣り遂げた……」と告げた 円城寺は血で染まる愛しき子に‥‥胸を痛めた 「………健……もう良い……」 「終わらせて下さい 西国院 健も総てを終えた時終わります 俺はもう神ではない」 水森の立っている所には血溜まりが出来ていた 西園寺康三が破滅へと墜ちて行く瞬間だった 「これにて、株主総会は終わります 西園寺康三の一派は総て捉えて消えて戴く! 新取り締まり役は西園寺冴子 貴方がなって下さい! この腐りきったコングロマリットを正しき道へ軌道修正をお願いします それが血を流した西国院 健への餞だと思って下さい…… これをもって株主総会を終わらせて下さい!」 水森が謂うと冴子が立ち上がり 「後日、正式な役員総会を開き、役員人事を配置した後、記者会見を開きます! 今日はありがとうございました」 と関係各社に向けて株主総会の終わりを告げた 報道各社が引き上げるまで、水森は気力で立っていた 円城寺貴正はそんな水森の傍に行き抱き締めた 「……健……もう良い……」 「………服が汚れます」 「………服より……お前が大切だ……」 水森の膝がガクンッと崩れた 円城寺は水森を強く抱き締めた 妹の忘れ形見だった 愛した妹の遺した唯一だった もっと早く手を差しのべてやれば良かった‥‥ 西園寺はいてもたってもいられず、榊原の腕を振り解いて、水森の傍へと近寄った 「……健…健………健…」 ベソベソと泣く西園寺を目にして 「……泣くな……一臣……」 そう言い水森は西園寺の頬を撫でた 円城寺貴正は西園寺に 「健を連れて来て下さい!」と言い急かした 会場の外には救急車が待機していた 水森は待ち構えていた救急隊員の手によってストレッチャーの上に乗せられ手当を受けていた 西園寺は水森の手を離さなかった 救急車は救急病院へと向かった 西園寺はずっと泣いていた 「………健……」 「泣くな……オレは死なない」 「………お前が死んだら俺も後を着いて逝く……」 水森は西園寺の頭を優しく撫でた 救急車は総合病院に到着し、慌ただしく水森を運んで行った 西園寺はオペの所までついて行こうとして、スタッフに離されそうになり水森に縋り付いた 「………あの……手を握らせておくんで一緒にお願い出来ませんか?」 本来、肉親以外は同行は出来ないが原則だったが‥‥ 円城寺貴正が病院側と掛け合い、何とか申し出を受け入れ西園寺をオペ室に入れた オペの間中、西園寺は水森の手を握りしめていた オペが終わり病室に運ばれると、気絶する様にベッドに突っ伏して眠っていた 水森は起きていた 麻酔で寝てるはずなのに水森は起きていた 会社の方は一臣の母、冴子が何とかするだろう 冴子の旦那と言うのが赤蠍商事の欧米社長をしていた 冴子はまだ康三と婚姻が決まった時に、今の旦那に惚れて交際して妊娠し、一臣が産まれた 一臣の父は認知をして自分の戸籍に入れる予定だったが‥‥‥康三が蛇の様に婚姻を迫り一臣に危害を加えかねないと‥‥康三と一度は結婚した 総てが‥‥康三の企みにより危機を迎え 西国院 健の神託により身を隠す事になり‥‥西園寺は康三の子のまま‥‥今に至っていた 離婚を機に旦那と正式に籍を入れて結婚し、社長に旦那を据えて、後々、次男を社長にする 水森の視た未来はそうなっていた 最期の仕事を終えた時、西国院を捨てると決めていた 今全部終わり、水森は決めていた 総てを終わらせる …………そう………総てを………… そして人の世に来た目的を果たせば‥‥水森は人としての役割も終える‥‥‥ それは生まれる前から決まっていた事で‥‥ 今更‥‥覆らない事実だった 人の世で炎帝に出逢う時、総ての歯車が回りだす 自分はその歯車の一つにしか過ぎない 役目を終えれば人の世も終わる‥‥‥ 水森は西国院 健として産まれて、辛かった日に早く人の世を終えたいと想っていた 一刻も早く終わらせて下さい!と祈っていた なのに今は‥‥‥終わりたくないと想ってしまうのだ 「ははっ‥‥身勝手だな‥‥俺も‥‥」 水森は己の身勝手さに苦笑した 水森が西園寺の頭を撫でてると、パチッと西園寺が目を醒ました そしてジーッと水森を見ていた 「………健……」 「何?……」 「俺の前から消えるつもり?」 水森は言葉をなくした 「………やっぱり……消えるつもりだったんだ……」 「………一臣……」 「俺はお前を離さないからな!」 西園寺は叫んだ 「一臣、俺には逃れられない役目がある その役目を終えれば‥‥‥俺は‥‥」 「嫌だ!俺と離れたくないと謂え!」 「一臣……離れたくなんかないよ」 「俺が欲しいって謂えよ‥‥ もっと欲しがれよ! 俺が欲しいって叫べよ!」 西園寺は水森を強く抱き締めた 「お前は本当に我が儘だな……」 どんな我が儘でも許してしまう自分がいた 「………こんな我が儘にしたのは健だろ? 俺は何も望まず何も欲しくなかった……」 「愛してる一臣」 「健……健……早く良くなれ……」 「うん……良くなるから待ってて……」 西園寺は水森を抱き締めて、その胸に顔を埋めた 水森はずっと西園寺を撫でていた 何時しか意識がなくなって……眠りに落ちた 西園寺は愛する者の存在を感じて幸せだった 目を醒ますと……… 病室には水森の姿はなかった その代わり執事の稲村がいた 「………稲村……健は?」 「健様は残った問題を片付けに行くと申されました くれぐれも一臣様を宜しくと申されておられました」 西園寺は泣いていた 目が醒めたら…… もしかしたら水森はいなくなってるんじゃないか…… って不安だった だから寝ないで見張って様と想ったのに…… 「一臣様、健様の近くのマンションを買い取りました そこで、待っておられたら如何ですか?」 「………健は戻って来るって言ったのか?」 「…………坊ちゃまを頼むと申されてました 帰るつもりがないのに頼むと申される方ではない 健様は私に事前に話をなさってました 総てを片付けるから、俺の味方になってくれ!と申されました 私は健様の味方になるとお約束致しました 健様は二人して消えるから、そしたら康三に電話を入れて捕まえましたと連絡を入れてくれと申されました 私は全面的に協力させて戴くと申し入れる程、健様は信用のおける方でした その健様が頼むと仰られるなら、私は何としても一臣様を守ります 健様が帰られる時まで……お守り致します 還られましたら、御二人にお仕えしようと想っております」 「………稲村…」 「ですからお待ち致しましょう」 「‥‥あぁ解った」 西園寺は納得して稲村と共に帰って行った だが西園寺は大人しく待ってなんかやるもんか!と想っていた お前がその気なら、出て来たくなる様にしてやる! 水森が西園寺の前に姿を現すその日まで…… 叫び続けてやる! 原稿の中心で愛を叫び続けてやる! 西園寺はそう決めていた 水森は冴子を西園寺グループ会長の席に据えた そして社長に冴子の夫 聖護を就任させた そして複合企業の会社総てに社長を配置した それは総合商社の赤蠍商事で培った経営戦略を取り入れて 各会社の実績と累計年商をグループで管理して統括する 採算の合わない企業は廃止か縮小して更に上へと進む 腐りきって風通しの悪い複合企業ならではの、見通しの悪さを改善してグループとして這い上がる 今が正念場となった 西園寺康三は、西園寺の名を剥奪され一族から追い出された 康三の甘い汁を吸っていた輩は一切排除され 本当に西園寺グループは生まれ変わったと謂えた 水森は西国院健の最期の仕事をし終えた それを見届け、飛鳥井家真贋と共に配置して明日へと繋げ役目を終えれた 円城寺貴正は水森の事を気にかけ何かと世話を焼いていた 水森健の後見人として、今後何人たりとも水森には近付けない事を約束した 妹の願い通り、平穏で静かな生活を送れる様にと、円城寺は水森を養子として戸籍に入れた 生前‥‥一度だけ妹から助けがあった 『お兄ちゃん‥‥助けて‥‥私は自分で選んだ人生だから‥‥仕方ないけど、健は‥‥あの子は‥‥ このままだと死んでしまう‥‥だからお願い‥‥ぎゃっ‥‥‥』 電話は妹の悲鳴で途絶えた 円城寺はどんな手を使っても妹を救いだそうと動いた 公衆電話から電話があり、突き止めてたどり着いた時には‥‥‥妹は‥‥冷たい骸になっていた 後悔した もっと早く動いていたら‥‥ あの子は助かったかも知れなかったのに‥‥ 円城寺はずっと悔やんでいた その妹の子を守ろうと想った だが妹の子は飛鳥井源右衛門が隠した後だった 飛鳥井源右衛門は康太を通して 『今は動くな!』と言ってきた 円城寺は仕方なく静観を決めた 円城寺は妹に面影が似た水森の顔を見ていた この子の行く先が穏やかな日々であります様に‥‥‥ 妹の遺した宝を見守る事を心に決めた

ともだちにシェアしよう!