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3-1 指輪
現国の先生が、忌引きで3日間休みになった。当然、代わりの先生が来る。
きのう、きょうは、教頭先生だった。
そしていま俺は、自室でゴロゴロしながらスマホを見て、どうしたものかと考えている。
あきからメッセージだ。
[あしたの現国、三船が担当だって]
他人事のような文面だけど、他人事にしてしまいたいのか、はたまた、上からの命令をあきらめ気味に報告しているのか。
「はあ……」
神様の試練だ、なんて聞こえの良いことを言ってみようかと思ったけど、無理だ。
休んじゃおうかとも考えたけど、それはたぶんあきに怒られるから、しないでおく。
幸いなことに、俺の席は窓際の後ろ側だし、あきは俺を目に入れなければいい。
俺はちゃんと勉強すればいいだけの話だ。
大丈夫、目立つことをしなければ。
立ち上がり、カバンから教科書を取り出して、机に向かう。
集中できなくて授業がまるっきり頭に入らない可能性もあるから、予習をすることにした。
ざーっと本文を読み、適当なルーズリーフに要点を抜き書きしながら、波線だの矢印だのを次々引っぱる。
知らない言葉の意味を調べてメモし、危うい漢字は10回書き、この話の解釈について書いた書評やブログ、質問サイトなどをいくつか読む。
大丈夫、国語は得意。95点以下は取ったことない。そうだろ?
30分以上経ったのに、妹はまだお風呂から上がらない。
手持ち無沙汰でぶつぶつと教科書を音読し始めたところで、ようやく階下から「上がったよー」という声がかかった。
お風呂には、大きな鏡がある。
映っているのは、どこにでもいる高校生だ。
髪は染めたことがないし、ピアスなんてもってのほか。眉くらいはちょっと整えるけど。
まじまじ見ても、普通の高校生。
成績は良い。友達はほどよい人数。前回の模試ではA判定を取った。運動は普通。
そして、男の先生と付き合ってる。
あきの裸を想像してしまって、自分の頭を叩いた。
「バカ」
つぶやいてお湯を頭からかぶったけど、目をつぶったらやっぱりあきが浮かんでしまう。
あきは着痩せするタイプだ……と言ってももちろん太っているわけではなくて、脱ぐと意外と筋肉質なのだ。
色も白いし優しい顔立ちだからそうは見えないのだけど、つくべきところにしっかりついている感じ。
中高と、陸上部で短距離走者だったと言っていた。
本当は陸上部の顧問をやりたかったけど、他にできる人がいないからという理由で、パソコン部に回されてしまったらしい――土日が潰れないおかげでデートできるから、他の先生がポンコツで助かった。
高校生のあきが、体育祭の徒競走で、ぶっちぎりの1位を取るところを想像する。
顔もカッコよくて先生になるほど頭が良くて優しくって、それで運動神経もいいなんて。
「モテただろうなあ……」
モテないわけがない。一体、どれだけの女の子たちが泣いたのだろう。
湯船に浸かりながら、心底あしたが憂鬱になった。
教室がどうなるか、見なくたって分かる。
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