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 1度お風呂に入り、また裸のまま布団にくるまって、ゴロゴロしつつお互いの温かさを感じていた。 「ねえ、あきはさ。いつ俺のこと好きになったの?」 「え、前に言ったじゃない。『機嫌が良さそうでよかった』って言われた時だよ」 「それっていつ? その発言、全然覚えてないんだよね」 「うーん、ちょっと廊下ですれ違っただけの軽いあいさつだからね。覚えてないかも」  あきが、どの時点で俺のことが好きになったのかよく分からなくて、いつか聞いてみたいと思っていた。 「遊びに誘ってくれた時には好きだった?」 「まさか。誘ったの、初めて話した次の日じゃない」 「じゃあ、ほんとになんとも思ってない生徒を遊びに誘ったんだ」  言い方がいじわるになってしまったような気がしてあきの顔を見たけど、あきは楽しそうに笑っていた。 「そうだね。だって成瀬くん、泣いてたから」 「泣いてたら無人島に連れて行くの?」  今度は本気で疑問に思って聞いたら、あきは眉尻を下げた。 「深澄が初めてだよ。休日に生徒と個人的に会うなんて、考えたこともない」 「じゃあどうして?」 「僕の恩師がそうしてくれたから」  あきは、懐かしむように笑った。 「僕の場合は完全に行かなくなっちゃったんだけど、2年の11月から冬休みまで、引きこもっちゃって」 「え、あきが?」  信じられない。パーフェクト人間みたいなあきでも、そんなことになるのか。 「きっかけは本当にささいな理由で、行かなきゃと思いつつずるずると。でも、終業式の日、当時の担任がうちに来てくれたんだよね。それで、ピクニックしようって。びっくりしたし、面倒で嫌だなと思ったけど、ちょっと遠くの見晴らしの良い公園でサンドイッチを食べた。それだけ」 「それで学校行ったの?」 「うん。冬休み明けから、何事もなかったかのようにね。友達も何も言わないでいてくれた」  先生がこじ開けてくれたという経験を、俺にしてくれたんだ。 「なぜか放っておけなかったんだ、深澄は。なんでだろうね。運命だとか言っておこうかな、あはは」  そう言って、ぎゅーっと抱きしめてくれる。 「じゃあ、恋愛的に意識したのはいつ?」 「遊びに行く4日前くらい」 「どうして?」 「楽しみで仕方がなくて、深澄は日に日に可愛くなっていくし、ふいに抱きしめたいって思ったのが最初かな。何言ってるんだろうと自分で思ったけど、まあ人間だから誰かを好きになることは当然あって、それがたまたま教え子の成瀬くんだっただけで。どうこうするつもりもないから、淡い思い出として一生大事にしようと思ったんだよ」 「そっか」  俺の片思いばっかりが強かったわけじゃないと分かって、ちょっとうれしかった。  あきは、くすくすと笑って付け足す。 「でもね、深澄は容赦ないから。そうしようと決めた日の昼休みにすれ違ったときに、例のセリフを言われてしまって。結果的に僕の決意はいとも簡単に粉々になって、もうダメダメ」 「俺なんにもしてないじゃん、それ」  笑うと、あきは俺の頬をつんつんとつついた。 「ホテルで、帰ろうとしたら服を引っ張って引き留めたじゃない。なけなしの理性がプツッと切れた瞬間ね、あれ」  なるほど、ようやく全部が繋がった。  あのときは急にぱたんと押し倒されて、唐突すぎてびっくりした。  でも、あきもずっと、そうしたかったのに我慢してたってことなんだ。 「俺、幸せ者だなあ。こんな風にふたりでくっついてられるなんて」  肩のあたりに頬ずりすると、あきは俺の髪に指を差し入れては、何度も()いてくれた。 「深澄は? いつから?」 「え? ……っと」  絶対に言えない。  初めて会った日に、別の先生とセックスしてる夢を見てしまった、なんて。 「最初っからかっこいいと思ってた。優しいし。話すとドキドキした。前も言ったけど、付き合う前、何回かあきのこと想像して抜いた。でも、本当に恋愛的に好きって思ったっていうか……認めたのは……旅行中かな」 「あれ、旅行前はそうでもなかった?」 「あきのことばっかり考えてたけど、恋愛的には考えないようにしてた、かなあ」  性の対象だった、なんて言えるはずもないけど。  あきは困ったように笑った。 「えー? あの可愛い目は違ったの? 小悪魔だなあ。先生たぶらかされちゃった」 「毎日あきのこと考えてたのはほんとだよ」  あきは俺の肩を抱いて、くちびるにそっとキスをした。 「深澄にベタ惚れ。可愛い」  世界一幸せ者だと思った。

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