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気づくと、ぽてっと倒れていた。
裸……だけど、布団がかけられている。
お尻やおなかもベタベタした感じはなくて、ふと横を見ると、あきが優しい目で微笑んでいた。
「おきた」
「俺、寝ちゃってた? ごめん」
あきは苦笑いする。
「寝ちゃったというよりは、意識を飛ばしたとか、気を失ったとかそういう方が近くて……とにかく、ごめんね」
「どうして謝るの」
「優しくするって言ったのに。ほんと、どの口が言ってるんだか」
はにかんで笑い、布団の中でぎゅっと手を握ってくれる。
「あきは甘えん坊だった」
「本性が出るよね、こういうとき」
頭を胸のあたりにぐりぐりしてきて、どんな表情をしているのかは分からない。
「それに、切羽詰まると『ヤバい』とか普段絶対言わないこと言う」
「国語の先生なのにね」
「三船先生がこんななの、俺しか知らない」
あきはさらにぎゅーっと抱きついてきて、本気で恥ずかしがっているようだった。
「もう俺ほんと、学校であきに会いたくないよ」
「やっぱり? 僕もそう思う」
「絶対思い出しちゃうもん。そんなふしだらな思考で勉学に励むの無理」
三船先生が、休み時間に生徒の質問に答えてたり、他の先生のこと手伝ってたり、みんなに優しくバリバリ働いているのを見たら……たぶん、ギャップで死んでしまうと思う。
心のなかで『この人、エッチの途中で恋人に好きって言ってって何度も言うんですよ』とか。
「深澄。キスしたい」
「ん」
目をつぶると、やわらかいくちびるが触れる。
ふと、思い浮かんだことを聞いてみたくなった。
「あのさ、すっごいデリカシーないこと聞きたいんだけど、いい? 言いたくなかったらスルーしてくれていいんだけど」
「なんでもどうぞ?」
「あきは、むかし付き合ってた女のひととかにも……その、そう言う感じだったの?」
「えっ!? ゴホッ」
相当びっくりしたらしいあきが、盛大にむせた。
「いや、別に過去の彼女がどうとかじゃなくて。ていうか、あきのむかしのことなんか気にしてたらキリないだろうから気にしてないんだけど。なんというか……それが本性だっていうから、気になっただけというか」
言い訳がましくつらつら言っている間にもあきはゴホゴホと苦しんでいたけど、立ち直ってから困ったように笑った。
「いくら付き合ってても、あんなこと人様に向かって言うわけないじゃない」
「でもさっき何回も言ってた」
「深澄だから言ったんだよ」
「じゃあ、他人に本性あらわしたことないの?」
あきは、目を丸くしたあと、こっくりとうなずいた。
「ない」
「え? ほんとに言ってる?」
「うん」
「なんで?」
不思議な生物を見てしまったかのように驚いていると、あきは、照れながら言った。
「僕は、ひとに嫌われるのがすごく怖い。だから誰にでも親切にすることにした。親切にすると親切で返ってくるから、優しい気持ちで生きられるしね。良いことずくめだなって思ってたんだけど……でも本当は、誰かに甘えたり、好きって言って欲しいときにねだったりしたかった」
「どうしていままではしてなかったの?」
「僕のことが好きって言う子は、すごく優しくされたい子ばっかりなんだ。期待に応えなきゃって使命感ばっかりで、自分が出せたことなんて1回もない」
女の子的には、かっこよくて優しい秋人くんに憧れて、付き合って、特別に優しくされるのが良かったんだろうな、と思った。
「深澄は、僕に優しくされたいから一緒に居てくれるわけじゃないでしょ?」
「うん、違うよ」
「そういうのがすごく伝わってきて……それに、『あきを守るために嘘をつく』って言い切ってくれて、ごめんねって思いながらも、本当はすごくうれしかった」
あきは愛おしそうに、俺の頭をなでた。
「深澄は、可愛いけどかっこいい」
「好きって言って欲しかったら言ってよ。別に、エッチのときでなくても」
「じゃあいま」
「あき、だーいすき」
やっぱり可愛い、と言って、髪がめちゃくちゃになるくらいなでられた。
もう1回ちゃんとお風呂に入って、ちゃんと浴衣を着たら、やっぱりあきはかっこよかった。
「あき、浴衣似合うね」
「来年花火見に行こうか。浴衣着て」
「うん」
来年……には、俺は大学生になっていて、誰と付き合おうがどうしようが、誰にも責められないはずだ。
「花火大会なら、手繋いでも気づかないかな」
「ちょっとキスくらい分からないんじゃない?」
「えへへ、楽しみだな」
あきの腕の中にもぐりこんで抱きついた。
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