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 文化祭当日の朝。  妹の更紗が、『友達を連れていくから案内して』と言い出した。 「俺、友達と回る約束してるんだけど」 「ちょっとでいいよ。ぱーって見せてくれたら、あとは勝手に回るし」  女子大附属高校に通う妹たちは、要するに、出会いがない。  だから、他校の文化祭に命をかけていると言っていた。  学校に着いたのが8:00。10:00スタートまでが、準備時間だ。  飾り付けは女子と背の高い男子に任せて、俺は手配済みのパーテーションを業者から受け取り、3階まで運ぶ手伝いをする。  最後の1つを運び終えると、美術部の女子が、黒板アートを描いていた。  アオハル的な男女が向かい合って、花畑の真ん中で、大きな樹と青空を仰いでいる。 「うまいもんだな」  隣に居たに梅元に話しかけると、梅元はぽけっと眺めていて、返事をしなかった。  ふと思い出す。  こいつは修学旅行のときに『気になる女子がいる』と言っていたけど、口を割らなかった。  もしかしたら、この子なのかもしれない。  大人しい感じで恋愛とか興味なさそうだし、男子と話してるところなんて1回も見たことがないけど。  時間まで余裕で終えた1組は、始まるまでダラダラ過ごし、地図やイベントのタイムテーブルを見ながら、どこを回ろうとかを話し合っていた。  スマホを開くと、更紗からメッセージ。 [11:00くらいに行く! 着いたらまた連絡するね] 「めちゃくちゃ中途半端な時間だな……」  ぽつりとつぶやきつつ、重田にメッセージを送る。 [妹とその友達が11:00に来るから、1時間くらい抜ける] [その時間バンド観に行くから大丈夫]  体育館ステージの欄を見ると、咲良ちゃんの友達がボーカルのバンドの出番らしい。  下手に待たせずに済みそうで、ほっとする。  そうこうしているうちに文化祭がスタートし、重田と咲良ちゃんが合流した。  事前の作戦では、まずは2年2組のタピオカに行くことになっている。  1番に並ばないとその後長蛇の列になり、午前中には売り切れてしまうらしい。  あまりの人気で、今年はタピオカを3クラス出しているらしいけど……みんなほんと、なんであんなブツブツしたものを飲みたがるんだろう。 「うわー、並んでるね」  女子、女子、女子。  そして出てくるひとは片手にカップ、片手にスマホで、タピオカは自撮りするためのアイテムなのだと理解する。 「早めに来て良かったな」 「昼時だったら絶望だったかもね」  大勢のひとが行き交う廊下を眺める。  三船先生はどうしているんだろう。  前に聞いたときは、担任を持っていないから、全体の運営側と放送委員を手伝うと言っていた。  準備で忙しかったのか、今週は学校で1度も姿を見ていない。夜のメッセージの返信も遅かった。  ばったり会えたらいいなとチラリとは思うけど、相当な奇跡が起きない限りこの人混みのなか会えるとは思えないので、期待しないようにする。  目についた教室に入り、ちょっとしたゲームで遊んだり、友達と写真を撮ったり。  そうこうしているうちに、更紗からメッセージが来た。 「ごめん、妹たち来たみたいだから」 「なるちゃんの妹さん、ちょっと会ってみたいなー。あいさつしてもいい?」 「うん、いいよ。うるさいと思うけど」  校門の前で待っているということで、3人で行ってみると……。 「おにいちゃーん!」  大きく手を振りながら駆け寄ってくるセーラー服。  重田が仰天してこちらを見た。 「えっ、あの子!? 成瀬の妹」 「そうだよ」 「ぜんっぜん似てねえじゃん!」  人生で何度言われたか分からないセリフ。 「うん、よく言われる」 「えー、めっちゃ可愛い!」  咲良ちゃんが俺の肩の辺りをバンバン叩く。  くるっとした茶色い瞳、小ぶりな鼻筋、肌荒れゼロの真っ白な肌。華奢で背も小さい。  髪も色素が薄く、染めていないけどほんのり茶色。あと、毎晩熱心に、口にパックしてたり。  初めて更紗を見る男友達のほとんどが、『なんでいままで妹が可愛いって隠してたんだ』『本当に血繋がってんのかよ』『遺伝子どうなってんだ』等々、俺に暴言を吐く。 「こんにちは! 成瀬更紗です。あと、友達のレイナと桃です」  友達もぺこりと頭を下げる。 「さらさちゃんっていうんだー。みすみ・さらさ兄妹。可愛い名前だね」 「ありがとうございます!」  名前に統一性があるおかげで、なんとか兄妹だと信じてもらえる……というのも、よくある話だ。 「あ、咲良。バンド始まる」 「ほんとだ! じゃあみんな、楽しんできてね」 「妹たちと解散したら電話するよ」 「りょーかい」  体育館に向かって手を繋いで走っていくふたりをみて、更紗がはーっとため息をついた。 「咲良さん、お兄ちゃんの言ってたとおり、アイドルみたいだね。いいなー彼氏」 「彼氏探しに来たの?」 「お兄ちゃんの友達なんてどうせまじめマンばっかりでしょ。期待してないよ」 「友達に顔広いやついるから、紹介しようか? そいつ自体は彼女いるけど」  友達ふたりが、期待を込めた目で俺をのぞき込んでくる。 「ぜひお願いします!」 「うん。じゃあ、ざっと案内したら、そいつに連絡してみるよ。とりあえず行こうか」 「はーい」

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