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 山口を呼んで妹たちを紹介し、仰天され、適当に何人かと繋げてもらった。  3人とも満足したようなので、あとはごゆっくりと言って俺は抜けて、重田と咲良ちゃんと合流した。 「はー……つかれた」  1年のねこ耳カフェで、紅茶をすすりつつ、うなだれる。 「お疲れ」  俺の気苦労を察した重田は、ぽんぽんと肩を叩いてくれた。 「なんで妹の彼氏作りを手伝わなきゃいけなかったんだろ」 「あはは、まあいいじゃん。3人とも楽しめたんだろ?」 「多分ね」  咲良ちゃんが、小首をかしげて聞いてきた。 「なるちゃん、後夜祭は出る?」 「ん? いや、片付けが終わったら帰ろっかなと思ってたけど」  毎年、文化祭のあと、有志でキャンプファイヤーをする風習がある。  カップルと祭り好きのためのイベントなので、俺は帰る予定だった。  けど……ふと、三船先生は出るのかな、と思った。  もし出るとしても話すことなんてできないだろうけど、もし三船先生が来るなら、高校生活の思い出に参加してみてもいいかな、なんて思ったり。  仕事中にメッセージを送ることは、自分の中で禁止にしているのだけど、ごめんと思いながら送った。 [後夜祭出る?]  返事がないので、やはり忙しいんだろうなと思う。  あと、よく考えたら、出ないわけがない。  先生も全員参加ではないはずだけど、女子が三船先生を逃すはずがない。  優しい三船先生は、誘われれば断らずに最後まで居るだろう。  ……と思ったとき、スマホが震えた。 [帰るよ。ちょっと体調悪くて]  えっ? っと声が漏れかけたけど、踏みとどまった。  どうしたのかと聞こうと思ったけど、長々私用のスマホをいじるわけにもいかないだろうと思ったので、一言質問して終わることにする。 [家行ってもいい? 寝たかったら行かない] [顔見たいな]  スマホをしまうと、重田がこっちを見ていた。 「最後だし、来れば?」  俺は首を横に振る。 「いや、いいや。更紗がやたらめったらメッセージ送ってないか心配だし」 「なるちゃん、妹さん思いだなあ」 「違う違う。逆に、クラスのひととかに迷惑かけたら悪いと思って」  これは本音でもある。 「そっかー。まあ、なんかお疲れっぽいしな。ゆっくり休めよ」  重田はそう言って、ニヤニヤ笑った。  文化祭は終了。後片付けに入る。  写真館は、片付けも簡単だ。はがして写真を返して、色々捨てて終わり。  後夜祭に出ない俺は、ひとつ仕事を請け負ってみることにした。 「先生たちの写真、返してくるよ。職員室に一気に置いてくればいいよね?」 「え、いいの? 助かるーありがとう!」  重田と咲良ちゃんの写真、それから、面白いだの母性あふれるだのにランクインした先生たちの写真を一挙に受け取り、職員室へ。 「失礼します」  担任を持ってる先生はほとんど居なくて、たぶん、まだ後片付けに追われている。  三船先生は――居た。  校長先生から順番に、机の上にぽんぽんと置いていく。  居る先生にはありがとうございましたと声をかけ、直接渡す。 「三船先生。3年1組の写真館です。ありがとうございました」  少しヨレた写真を渡す――欲しいと言い出した女子がちょっとばかし争奪戦を繰り広げ、クラス委員が止めた。 「こちらこそ、ありがとう」  笑顔で受け取ってくれたけど、たしかに、ちょっと顔色が悪い。 「先生、大丈夫ですか? 顔色良くないような」 「あ……分かる? あはは」 「この後まだ仕事あるんですか?」 「いや、先生たちが一旦全員そろったら、後夜祭はごめんなさいして帰ろうかなと思ってるよ」 「先に帰った方がいいんじゃないですか?」 「17:00くらいにはそろうから大丈夫。お気遣いありがとう」 「いえ。頑張ってください」  ぺこりと頭を下げ、再び他の先生たちに配って回って、職員室をあとにした。  会話は不自然じゃなかった。めちゃくちゃ緊張したけど。  17:00まで時間があるから、1度家に帰って、着替えて、打ち上げだとかなんとか言って出て行こう。  去年までそんなものなかったじゃないとか母親が言い出す気がするけど、ここは更紗を使って、『お兄ちゃんは案外友達が多い』と証言してもらおう。

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