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8-1 追体験
あきに、あえて言っていないことがある。
志望校だ。
俺は、県内最難関の私立大学を目指している。
1年生の時に偶然本屋で立ち読みした政策学の本がすごく面白くて、その著者が、この大学の政治学科の教授だったからだ。
ただその先生のもとで学びたいという理由だけで、政治経済学部を目指して必死に勉強している。
でも実は、その先の進路のことはあんまり考えていない。
政治学科に進むことになるけれど、政治家になりたいわけじゃないし、経済学科のように、士業の資格が取れるわけでもない。
言ってしまえば『実践的に就職に役に立たない』政治学科に進んで、さてどうしようということを考えなければいけない気がしてきた。
あきとファミレスでごはんを食べながら、ついに、そのことについて話してみた。
「あき、あのさ。進路相談に乗ってくれない?」
「うん、いいよ」
優しく微笑み、すくったドリアをお皿に戻す。
「俺さ、ここ目指してるんだよね」
常に持ち歩いている、その本をかばんから取り出す。
『問題解決の魔法 -公共政策学入門-』
くるっと裏返して、著者プロフィールを見せる。
「この、遠山孝治 さんっていうひと、このひとに教わりたいんだ。ていうか、このひとの元で勉強できないなら、大学行く意味ないし就職しようかなと思ってるくらい」
「へえ。見せて」
ぱらぱらとめくり、目次とあとがきをざっと読んで、また中身をぱらぱらとめくる――本を読み慣れているひとの読み方だなあ、と思った。
「たしかにこれは、すごく興味をそそられるね。いいじゃない、ただ偏差値の高い大学に行こうとしてるわけじゃなくて、ちゃんとした動機があって」
にこにこするあきに対して、俺は少し、深刻な顔をしてしまう。
「でもさ、政治学科に入って、その後何の仕事するんだろうって。具体的に資格が取れるわけでもないし、なんか、趣味が興じた進路選びな気がしてきて。出願は12月末だから、考える時間はまだ1ヶ月以上ある。って思ったら、土壇場に来て、これでいいのかなって悩みはじめちゃった」
「進路担当の先生には相談した?」
「まだ」
「とりあえず話してみたら?」
「いや……」
あきの目を見据える。
「将来あきと一緒に生きていくために考えてることだから、まずはあきに相談したい」
あきはびっくりしたような顔をしたあと、こくりとうなずいた。
「分かった。じゃあパパッと食べて、ゆっくり話せるところに行こうか」
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