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 更紗はお風呂に行き、テーブルを挟んで向こう側に両親。  俺はふたりを(にら)みつけていた。 「どういうことだか説明しなさい」 「深澄が……」 「母さんには聞いてない、深澄に聞いている」  母親が口をつぐむと、俺は低い声で切り出した。 「さっきは怒鳴ってごめんなさい。予備校で、公民のエクステンション授業を1コマ増やしてもらいたかったんです。試験科目を変えたいわけじゃなくて、ただ公民をもう少し勉強したいだけだから、いままでの授業もちゃんと受けるし、本番の勉強に支障は出ないようにするつもりです」  父親は首をひねって、母親に聞いた。 「なんでそんなことで怒鳴り合いにまでなるんだ」 「受験に何も関係ない科目よ? それを増やしたせいで受験科目に影響が出て落ちたら元も子もないじゃない。お金もかかることだし、それにこの子、春に1科目余計にとったものを辞めてるんだから」 「それは一般入試に切り替えたから辞めただけじゃん」 「辞めただけって何?」  言葉のあやにいちいち突っかかってくる母親が、本当に嫌になる。  父親は眉をひそめてから、俺に聞いた。 「予備校じゃなくても、学校の先生に聞くとか、本を読むとかじゃ駄目なのか? 母さんの言う通り、1コマ増やして本番の勉強に障るようでは意味がないぞ」 「1歩踏み込んで誰かに習いたいんです。訳を聞いてください」  父親は、腕を組んでふうっと息を吐いた。 「何だ? 言ってみなさい」 「俺はずっと政治学科を目指してて、前も言ったと思うけど、遠山教授ってひとに教わりたいんです。でも、俺って別に政治家になりたい訳じゃないし、ただ勉強したいって気持ちだけで、その先のこととか考えないで進路決めちゃっていいのかなって、不安になって。だから、本当にこれがやりたいことなのかっていう自分の気持ちを確かめるためにも、公民をちゃんとやりたいんです。学校の授業だけだと、少し物足りない」 「でもね、お父さん。お金もかかることだし」  口を挟んだ母親を、父親が一蹴する。 「1コマ増えたくらいで何十万もかかるわけでもなし、お金のことを出すのはやめなさい」  また母親が黙る。 「いいんじゃないか? どうせお前は、その授業を取ろうが取るまいが政治学科に行くだろうと俺は思っているし、それで本番の試験勉強のモチベーションに繋がるならいいと思う」 「本当? いいの?」 「その代わり他の科目の成績を下げるんじゃないぞ」 「うん、がんばります。ありがとう」  両親の顔をそれぞれ見て、頭を下げる。  母親は何か言いたげだったけど、何も言わなかった。  結局今回も父親にOKをもらって実現した形だ。  母親に自分のことを分かってもらうとかまでには至らなかったけど、自己主張できたのは、何か前進した気がした。

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