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 お守りを買ったり出店を見るのは、今年はあきらめた――インフルエンザをもらったらシャレにならないので、これ以上人混みにいるのは得策ではないと判断したのだ。  来年はゆっくり見ようねと優しく微笑まれたら、そうだよなとすぐに納得してしまった。  その後は、3駅先のちょっとした繁華街に行き、ファミレスでご飯を食べた。  近況報告とか、どうでもいい友達とのバカ話とか、本当にとりとめのない話。  それでもあきはうんうんと笑顔で聞いてくれて、こういう何気ないやりとりが欲しかったんだと実感した。  時刻は14:00。  さっきから時計をチラチラ気にしていたあきが、にこやかに言った。 「深澄、きょうはご家族泊まりなんだよね?」 「うん」 「じゃあ、きょうは帰らなくても大丈夫?」 「え?」  ドキッと心臓が跳ねた。これは……誘われているということでいいんだろうか。 「うん。あしたは授業が昼からだし、大丈夫」 「よかった。実はね、ホテルを予約してあるんだ」 「えっ?」  びっくりして目を丸くしたら、あきはちょっといたずらっぽくあははと笑った。 「チェックインが14:00からで、もう入れるから、そちらに移動しない? それか、他に行きたいところがあったらそちらに寄ってからでもいいけど」 「ホテル行く」  食い気味に答えたらさらに笑われた。  ビジネスホテルを想像していた俺は、連れてこられた場所のエントランスで、かなり驚いてしまった。  ラウンジがあるような立派なホテルだったのだ――曰く、いつも頑張ってるのる深澄にお年玉らしい。  リッチな雰囲気に少しのまれつつ、14階の部屋へ。 「わ、すごい」  大きな窓からは、さきほどお参りした八幡宮の屋根も見える。  綺麗な窓ガラスにべったり張り付く俺の後ろから、あきの腕が伸びてきた。  黙ってぎゅっと抱きしめられて、そのままそっと、アウターを脱がされる。  少し振り向いたら、俺の体と窓ガラスの間にあきがすっと割って入ってきて、そのままキスされた。 「深澄」  小さくささやく声がちょっと熱っぽさを帯びている気がして、ドキドキと心臓がうるさい。 「こんなにがっついて、大人げないなって自分でも思うけど……いいかな?」  少し恥ずかしそうにするあきが愛しくて、ちゅ、と音を立ててキスをしてみる。  こうやってまじまじとみると、あきは本当に綺麗な顔をしていて、かっこいい。  俺は黙ってあきの裾を握ってベッドへ移動し、真ん中らへんに座った。  目を閉じると、あきが遠慮がちにキスをしてくる。  最初はくっつけるだけの軽いキス。それから、ゆっくりと優しいキス。  ちょっと大胆になって舌が入ってきたら、条件反射のように甘い息が漏れた。 「あき。きょうで受験前最後だと思うから、きょうは抱き潰して欲しい……んだけど……」  目を丸くしたあきは、ちょっと固まってから、眉根を寄せて笑った。 「どこでそんな煽り方覚えたの?」  笑いながら、肩をドンと押す。  無抵抗に倒れた俺の体をまたいで、ゾクゾクするような目でこちらを見下ろした。 「親が見てた映画のそのまんま受け売り」 「それ見て僕のこと考えた?」 「うん。でも、あきの方がかっこいいなって思っただけ」  乱暴に俺のトレーナーをたくし上げながら、意地悪く質問を繰り返す。 「抱き潰すって? まさかその映画、どんな風にするかまではやってなかったでしょ?」 「ガサツそうな女のひとが、クズっぽい男にそう言って、ガバッて男が覆いかぶさって終わり。そしたら次の場面」 「じゃあ深澄は分かんないんだ。抱き潰されたらどうなるか」 「……っ、おしえて」

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