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10-1 卒業

 2月に入ってからは自由登校になって、全然クラスメイトとは顔を合わせていなかったけど、無事合格して、また学校へ行くようになった。  そして、毎日ひとりふたりと来るようになり、みんな晴れやかな顔をしている。  マンガで言うところの、1度散り散りになった仲間たちがそれぞれの場所で戦って敵に打ち勝ち、約束の場所に再結集するみたいな。  ……なんていうのは言い過ぎかもしれないけど、1年を駆け抜けてやりきったのを男子高校生の感性で表すなら、こんな感じ。  きょう、友達の中で合格発表日が1番遅かった、梅元が来た。 「どうもどうも。みなさんご心配おかけしましたが合格しましたー」  俺の貴重なクラスメイトである、山口、川合、梅元……無事全員受かった。  カラオケだ焼肉だと盛り上がるのを、俺はそのそばにちょこんと座って、ほんのり笑いながら腕組みして見ている。  別にこれでノリが悪いとか言われるわけでもないし、『成瀬ってそういう感じだよね』っていう立ち位置で、友達関係については、ある意味省エネでやってこられた。  3年間、割と居心地が良かったので、大学で新しい人間関係を作るのは少しパワーを使いそうだなと思う。  同窓会とか開いてくれるかな。  そういえば前にあきが、『卒業後の同窓会で仲良くなったことにしたいから、頑張って同窓会を開いてね』なんて言っていた気がする。  でも、同窓会を開いたところで、学年が違う三船先生を呼ぶのは難しくないか?  唯一の接点と言えば、修学旅行でうちのクラスを担当してくれたことくらいだけど……。  いまのうちに、三船先生と少し仲良くなっておいた方がいいのだろうか。  でも、三船先生を同窓会に呼ぶためには、俺が個人的に仲良くなるより、同窓会を開いてくれそうなクラスの中心人物っぽい女子と仲良くなってもらった方が……いや、それだと別の意味で問題になるか。  先生と卒業後に付き合い始めるというシナリオを実現するには、どうするのがいいだろう。  これはあきと相談した方がいいなと思った。  夜、自分の部屋からあきに電話をかけた。  最近は割と気にせず、家から電話をかけたりもしていて、というのは、普通に友達とも連絡を取ったり、平日に家にゲームをしに来たりで、誰かと電話をしていても不自然じゃなくなったからだ。  いつも通りやわらかな声で『おつかれさま』と言ってくれるあきにほっこりしつつ、きょう1日考えていたことを話した。 「どう思う?」 『確かにそれは悩んじゃうね。でもなんだろ……正直、深澄以外に個人的に生徒と連絡をとりあうのは嫌だな。あはは』  あっけらかんと笑うあきに、思わずときめいてしまった――電話だから顔を見られずに済んで助かった。  自分の頭を叩き、気を取り直して、話を進める。 「じゃあ、個人的じゃない感じで三船先生に連絡取ればいいの? 学校経由で来てくださいって言うとか?」 『そうだね、大きなイベントとして開いてもらって、他の先生も来るような』 「それが確実なのかなやっぱり。でもそれだと、俺に決定権はないや。誰かにうまくお願いしないと」 『まじめな成瀬くんの発案というのは、少し難しいかな?』  ふたりで電話越しに頭をひねること1分。 ふいにひらめいた。 「あ、いいこと思いついた。友達に犠牲になってもらえばいけるかも」 『犠牲?』 「友達のなかにひとり、クラスメイトに片思いしてる奴がいてさ。いや、口を割らないから確定じゃないんだけど」  梅元だ。修学旅行のときに好きな子がいると言っていたけど、誰なのかは分からずじまいだった。  でもその後の文化祭で、黒板アートを描く美術部の子をぼーっと眺める姿を見て以来、片思いの相手はそのひとなんじゃないかと思っている――北村さんという、大人しい子だ。 「俺の予想が当たってれば、相手は男子と接点なんか全然なさそうなタイプの子で、その友達も多分、どうやって仲良くなろうか画策中だと思うんだよね。共通の友達に調子乗りがいるから、うまいこと先生同席の集まりをやってもらう。そしたらそいつもチャンスになるし俺も三船先生と接点ができて、一石二鳥」  ばーっと計画を語ったら、あきがクスクスと笑い出した。ダメだったのだろうか。 「どう? 無理がある? それとも、そいつが生贄(いけにえ)すぎてかわいそうかな」 『ふふ……、いや、いいと思う。ただちょっと、頭の良い深澄が勉強以外のことに本気を出すとこうなるのかって、面白くなっちゃっただけ』 「いやいや、絶対三船先生と仲良くならないといけないんだから。必死だよ」  あきはまだ控えめに笑ったあきは、ぽやっとつぶやいた。 『なんか、きょうはいい夢みられそうだなあ』  のんきな声でうれしそうにするあきが目に浮かんで、なんだか、すごく和んでしまった。

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