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『千のちんこの神隠し』4

 白いモヤの中にちんちんがぴょこぴょこと飛び跳ねて逃げていくのが見えました。  ぼくは不安でいっぱいになりながら、その後を追いました。なんとなく白いモヤの近くにいたくなくて、避けながら追いかけているとなかなか追いつきませんでした。  ちんちんは飛び跳ねながら橋を渡っていきます。その先には大きな旅館みたいな建物があって、そこののれんをくぐっていきました。その建物は煙突があって、湯気が出ています。 「お風呂屋さん?」  さすがに勝手に建物の中に入るのはなんだか怖かったので、外から様子を見ることにしました。入口の前に大きなピンク色の看板がありました。読もうと思ったけれど、日本語じゃなかったので、読めませんでした。唯一、時間と数字だけはわかりました。 「120分……三万……?」  ここのお風呂屋さんは時間制限があるようです。暖簾の下から中を覗きました。ちんちんは受付となにやらやり取りをしてるようです。台に乗って受付の人とコミュニケーションを取っています。のれんでよく見えませんでしたが、受付の人の手袋をした手が時々ちんちんとのやりとりで見え隠れしました。やがて、ちんちんは竿に引っ掛けるタイプの鍵みたいなのを受け取るとそのまま奥へと消えていきました。どうやら中に入るには手続きが必要みたいです。どうしようかと考えていると、突然けたたましい鈴のような音が鳴り響きました。  受付台の上にあった黒電話が鳴っていました。ぼくは黒電話がテレビの戦争ものとかの時代劇でしか見たことがなかったので、それが電話だと気づくまで少し時間がかかりました。受付の人が後ろを向いて話し始めたのが見えました。 (……今だ!)  のれんが揺れないようにそっとくぐると、身を屈めたまま受付台の下を通り過ぎました。受付の人の電話の声が聞こえてきて、ぼくに気づいていないことがわかります。そのまま廊下の角を曲がろうとした時、誰かとぶつかって思いっきり尻もちをつきました。 「……っ!」  鈍い痛みがおしりに広がっていきます。それは相手も同じだったみたいで「いててて……」という声が聞こえてきました。ぼくは謝罪をしようとして、相手を見て言葉を失いました。  目の前の尻もちをついているのは、服こそは甚平みたいな人間の服を着ていたけれど、全身は灰色の毛に覆われ、顔は猫そのものでした。灰色と黒の毛が混じった金色の瞳の猫でした。しかし猫もぼくを見てびっくりしたみたいで固まっています。 「よ……妖怪……っ!?」  逃げなきゃ、ととっさに今来た入り口を見返すと受付の人がぼくを見ていました。人だと思っていたけれど、その顔はブルドックでした。 「に……人間だぁ〜〜っ」  猫が叫ぶとブルドックも騒ぎはじめ、廊下からたくさんの妖怪やちんちんが出てきました。逃げようとしたけれど、狭い廊下の前後に挟まれると逃げ場を失ってしまいました。  妖怪とちんちんに囲まれましたが、どうやら相手もぼくを警戒しているようで襲いかかってはきませんでした。にらみ合いでした。ぼくが一歩出ると、向こうが一歩下がったので、このまま逃げようと出入り口に向かって走ろうとすると、ちんちんたちが勃起して威嚇してきました。 「ひぃっ」  とっさに反対側に逃げようとしましたが、反対側のちんちんたちも同じように勃起してきます。ぼくは勃起したちんちんたちを飛び越える勇気がなくて、円の中心に立ちすくむしかありませんでした。 「なんの騒ぎだい?」  人垣の向こうからおばあちゃんみたいなしゃがれた声が聞こえていきました。皆はそれに気づくと声の主に道を譲るように人垣が割れました。奥からシミだらけのちんちんがのっそりのっそり歩いてきます。その老ちんちんはものすごく大きくてびっくりしました。高さはぼくの腰ぐらいまであって、太さもぼくの体と変わらないぐらい大きいです。老ちんちんはぼくを見上げてシワだらけの玉を揺らしました。 「おや、人間かい。珍しいのが紛れ込んだもんだね」  その声は紛れもなく老ちんちんから出ていました。ぼくは何度かまばたきをした後、大声で叫びました。 「ちんちんが喋ったぁぁ〜〜っ!!」 「おや、喋るちんこに会ったのは初めてかい?」  声は笑っていましたが怖い雰囲気がしたので、ぼくは口を閉じました。老ちんちんは間近まで寄ってくるとぼくの顔をじっと眺めてました。 「なるほど。遊びに来たってわけじゃなさそうだ」 「あの……、ぼく……」 「どの道こんなところで突っ立たれてちゃ他のお客様の迷惑だよ。あたしの部屋に来な。エレベーターは使うんじゃないよ」  ここに来た理由を説明しようとしたけれど、遮られてしまいました。老ちんちんは壁の板を外すと中のスイッチを押しました。するとソファ置いてあるエレベーターが下りてきました。老ちんちんがそこにどっしりと乗っかるとすごいスピードで上へと消えていきました。

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